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Vol.37 2010年 6月号 原子力国際専攻特集 |
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Vol.37 6月号
次世代の原子力システム
原子炉の仕組みや原子力の将来的な構想について、次世代の原子力システムの研究をされている笠原直人教授にお話を伺いました。
先生は動力炉・核燃料開発事業団(現:日本原子力研究開発機構)で高速増殖炉の開発に関わってこられて、現在は東京大学大学院原子力国際専攻で次世代を担う人材の育成に力をいれていらっしゃいます
Q.現在の原子炉の仕組みを教えて下さい。
現在、運転している原子炉のほとんどは軽水炉です。軽水炉はウランの同位体の1つであるU235に中性子をぶつけ、核分裂を起こします。この時、発生する高速中性子をU235の核分裂に適した速度まで減速させるために水が減速材として用いられます。重水素を含み水より密度が高い重水に比べ、中性子を吸収しやすく減速能が高い軽水が用いられています。また、核分裂で発生した熱が水を水蒸気に変え、タービンを回し発電させます。
しかし、U235は天然のウランの中に0.7%しか存在しません。そこで、ウランの他の同位体の有効利用が可能で、さらに放射性廃棄物の削減も期待される高速増殖炉の開発がなされています |
工学系研究科 原子力国際専攻
笠原直人教授
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Q.高速増殖炉とは?
高速増殖炉では、軽水炉の時とは違うウランの同位体U238に対して、秒速20,000㎞程度の高速度で中性子をぶつけます。U238は放射性壊変によりPu239に変わり、不安定なPu239は容易に核分裂を起こします。この時出る2つ以上の中性子によって、再びU238をPu239に変えることができるので、燃料を増やすことができ、高い燃料利用率を実現しました。(図1)
図1:高速増殖炉と軽水炉での核分裂の起こし方の違い
また、高速中性子が放射性物質にあたることで、放射性壊変が起こり、半減期の短い物質に変わり、比較的短期間で放射能を失うので、放射性廃棄物の削減にもつながります。
Q.笠原先生ご自身の研究について教えてください。
原子力システムのエネルギー変換効率は、運転温度を上げるほど向上します。軽水炉の運転温度は300℃程度ですが、次世代のシステムでは500℃以上の高温運転が計画されています。その実用化のための高温構造システムについて研究しています。そこでは原子炉に加わる荷重が大きな問題となっています。水のように中性子を減速させずに効率良く熱を運ぶ代替の媒体として、高温でも沸騰しない液体金属を用います。液体金属には、水銀や鉛などがありますが、他の金属を腐食しないという点で純粋なナトリウムが用いられています。原子炉に加わる荷重は、外界と隔てる壁面の圧力もありますが、沸点の高い液体金属では、温度変化による体積変化が小さいのであまり大きな原因にはなりません。
Q.では、何が原子炉にとって荷重になるのでしょうか?
冷たいコップに熱いお湯を注ぐと、内側が熱されて膨張しますが、外側は冷やされたままです。外側はもとの形状を保つので、突っ張りあいが起こって、コップの表面は割れます。大きな荷重が繰り返されるとそれと似たことが原子炉でも起こる可能性があるのです。高温だということよりも温度差ができることに問題があると言えます。ゆっくり温度を上昇させれば問題がありませんが、緊急時のように急に止めなくてはならないことがありますから、そういった熱応力に耐えうるだけの構造を設計する必要があるのです。
また、応力集中が起こることによって、局所的に荷重がかかります。同じ荷重がかかっても、ものの形状によって変形するときの荷重の大きさは変わります。複雑な形状をした機器の強度を考えなければならなりません。さらに、高温にすることで金属が変形し易くなることも問題になります。あめを高温にすると伸ばすことができます。この現象をクリープ現象と呼びますが、高温になると金属でさえ、クリープ現象が起こります。こうした非弾性変形が繰り返し起こってしまうと、機器が過大変形したり、き裂が生じる可能性があります。
図2:軽水炉と高速炉の負荷のかかり方の違い
Q.液体金属を用いることのメリット何ですか?
先ほど述べたように高速増殖炉でウランが放射性壊変するためには、高速の中性子が必要です。液体金属は中性子を減速させない媒体として優れています。また、燃料と燃料の間が開いていると中性子が通り抜けてしまい、核分裂や核変換の効率が良くありません。逆に密度を大きくし、燃料同士の距離を近づけると核的な特性は良いのですが、今度は熱をうまく逃がせません。液体金属であれば、熱伝達率が高いので、この問題を解決できます。
Q.研究の一番のやりがいは?
研究成果が原子炉の規格や設計の基準などに採用され社会貢献につながることです。基準に採用されるまでには、原子炉開発に関わるいろんな人が審査します。そのうえ、一般の人にも意見をうかがいます。だからこそ、この基準は信頼に足るものであり、規格の策定に関われることはとても名誉なことだと考えています。
Q.原子力が今後広がっていくために必要なものとは?
原子力発電の拡大には、電力を大量に得るメリットとそのために払うリスクとのバランスを、ユーザーである国民が自らの問題として考えられることが大事だと思います。日本では安心に対する要求が強く新技術導入に慎重ですが、高速増殖炉の実用炉が稼動することは将来の電力の安定供給には必須でしょう。世間の理解を得るためには原子力のリスクについてきちんと説明する必要があるでしょう。
Q.学生へのメッセージをお願いします。
一歩高い視点でものを見ることが大事です。自分のやっていること・これからやろうとしていることが本当に役に立つのか、よくよく考えて自分の道を決めると良いでしょう。規格策定に向けた研究は新たな研究で論文を書くことよりも地味かもしれません。しかし、長期的には社会貢献を通した大きな喜びがあります。
若いときから、目的を一つ高い目線から見ることを心がけておくと、長い目で見れば、満足の行く結果が得られるかもしれません。
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東京大学工学部・大学院工学系研究科 広報室学生アシスタント
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