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Vol.38 8月号
放射光に魅せられて

 応用化学専攻、尾嶋正治教授にお話を伺いました。主には放射光を用いた、幅広い研究をしていらっしゃいます。JSTCRESTナノ界面、NEDO 燃料電池、STARC 民間共同研究といった大きなプロジェクトを動かす傍ら、教育に、趣味に、アクティブに活動していらっしゃいます。


Q.研究のきっかけは何ですか?

 修士修了後、日本電信電話公社(現NTT)で21年間働いていました。電子デバイスのナノ加工や表面物性などについて研究していましたが、留学先で放射光に出会いました。放射光で緑色に輝くダイヤモンドを見て魅せられて以来、放射光研究を29年間続け、応用化学科でも15年間研究を続けています。

工学系研究科 応用化学専攻
尾嶋正治教授

Q.どんな研究をなさっていますか?


 結晶成長などの手法を用いて、窒化物半導体や酸化物薄膜、カーボンアロイ触媒など(注1 )を作り、さらにそれらを放射光で解析する、という研究しています。放射光とは、電子などの荷電粒子を光速近くまで加速し、磁場中でローレンツ力により曲げることで、放射される光です。普通の光が全方位に対して広がるのに対し、指向性の高い強力な光が得られます。放射光を用いて光電子分光法(注2 )を行うことで、従来よりも高精度な観測が可能になります。

注1 )窒化物半導体の一例GaNは青色発光ダイオードとして用いられる。カーボンアロイ触媒は燃料電池の白金代替触媒として研究を進めている。
注2 )光を当てると、光電効果により光電子が出る。このエネルギーを測り、入射光のエネルギーとの差をとると、結合エネルギーが分かり、物質の電子状態が得られる。放射光は指向性が高く、エネルギー分散が小さく、そろっているために、入射光としては最適である。

Q.作っているものについて教えてください。


 酸化物の例をあげましょう。酸化物は、その組成や欠陥を制御することで電気抵抗をコントロールできます。レーザー光をあててAlやMn 酸化物を昇華させ、1 層ずつ積み上げることで、原子オーダーで制御された綺麗な薄膜を作ることができます。これにより、USB メモリーより2 ケタ速い、不揮発性抵抗変化メモリーReRAM を作ることが出来ます。次世代メモリーとして、企業でも研究が盛んに行われているホットな分野です。

Q.どのように解析していますか?

 作った不揮発性メモリーに電圧をかけ、電流値をはかって解析することで、そのメカニズムを調べ、より高性能なデバイスの開発に役立てようとしています。Al 電極に正の電圧をかけると、O-が引き寄せられ、界面(物質の境界)で酸化層が形成され、抵抗が大きくなります。(右図)

Al/PCMO/Au の電流ー電圧曲線
 負の電圧が-4Vになると、薄膜の欠陥をホッピングしながら電子が流れます。高抵抗状態を0 、低抵抗状態を1 とすれば、電流の流れやすさで1 か0 かを区別することができ、情報を記録することが可能になります。LSI 関連のみならず、他にも様々な研究をしています。


Q.他の研究についても教えてください。

 絶縁体は、電子を通さないはずです。しかし、絶縁体LaALO3とSrTiO3を接合させると、界面で電流が流れる、つまり金属層ができる、という不思議な現象があります。何故そのような現象が起こるのか分かっていませんでしたが、放射光を用いた光電子分光法により、界面金属層ができるメカニズムを解明しました。(右図)LaO+とAlO2-の間に働く電気双極子により電子が界面に蓄積され、金属層となり、電気を通すようになるのです。
LaAlO3/SrTiO3絶縁体界面における界面金属層の形成

Q.最後に、読者に一言お願いします。


 何かをマスターするためには、短期間で集中することがお勧めです。試行錯誤だけでなく、10冊以上本を読むなどして、まず理論を頭に入れることで、効率良く物事を進められます。
 放射光については、12月にBLUE BACKS から面白い本を出しますので、興味があれば是非読んでみてください。

(インタビュアー 沼田 恵里)

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