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Vol.35 2月号
たくさんのコンピューターを操る技術

 近山教授の研究室では大規模並列分散計算とその応用である将棋プログラムの開発に取り組んでいます。
 この大規模並列分散計算は膨大な計算を複数のコンピューターを同時に制御して計算させる技術です。膨大な計算の処理は将棋プログラムのみならず工業、創薬など様々な用途で必須の技術です。今回は現代の計算機の主流である大規模並列分散計算について近山先生にお伺いしてきました。


Q.どのような研究をしているのですか。

 私たちの研究室では大規模並列分散計算を扱っております。大規模並列分散計算とは様々な場所に存在する計算機を用いて分散させて計算することで、合計して高い計算能力を得るというものです。
 高い計算能力という点ではスパコン(スーパーコンピューター)も同じですが、スパコンはお金をたくさんかけてもいいのでとにかく高速に計算したいというニーズに応えるものです。それに対して私たちが取り組んでいるのは、あまりお金をかけなくてもできる高性能計算ということになります。



近山隆教授
工学系研究科 電気系工学専攻

Q.大規模並列分散計算の難しさはどこにありますか?

 算数の問題で仕事算というものがあります。1人の大工さんが家を作ると40日かかる時、4人の大工さんが協力すれば10日でできるというものです。しかし人数が増えると現実ではそのような理論通りにはいかず、10日では終わらないでしょう。
 まず、4人の大工さんにやるべき事を同時に正確に伝えることが難しいでしょう。また手順も大事で、たとえば柱を立てずに屋根はかけられません。
 並列分散処理でも問題は全く同じです。別々の場所に置かれている多数のコンピューターに適切に命令を出したり、適切にデータを通信したりするのが難しいのです。

Q.具体的な研究を教えてください。

 私たちのプロジェクトの一つでは大学の研究に必要な並列分散計算のために日本中の大学のコンピューターを繋げる研究をしています。
 近年、扱う情報量が爆発的に増えたので、大量のコンピューターを同時に使いたい、しかし使いたい時期には波があり、常に必要としているわけではないというのが多くの大学での現実です。そのために各大学でコンピューター資源を共有するのです。
 研究には課題がいくつもあります。大規模なシステムではコンピューター同士がどのようにつながっているのかもどんどん変化しますから、いちいち人手で入力するのがとてもたいへんになります。これをあまり手間をかけずに自動的に検出して最適な通信方法を自動的に決める必要があります。また、システム全体の動作状況をわかりやすく可視化するシステムも開発しています。
 複雑な問題では、具体的にはどんな計算が必要なのか、あらかじめ分かっていない場合も多くあります。たとえば、私たちの研究室では将棋ソフトの開発も行っていますが、将棋では局面の展開によって状況が変わるので、あらかじめどのような計算をどれだけ行う必要があるかを知ることは不可能です。


   近山・田浦研究室で行われている研究の紹介。
   大規模並列分散処理の技術を軸に様々な方面への応用試みている


 しかしながら、あらかじめ計算すべき量がわからないとコンピューターに計算を適切に割り振ることができません。そうすると何も計算をしていないコンピューターが生まれる可能性がありますが、これは非常にもったいないことです。そのため必要「かもしれない」計算を割り振ることでコンピューター資源を最大限活用できるようにしています。必要かもしれない計算をしておき、本当に必要だったらラッキー、そうでなくても何もしないよりはましというスタンスです。このような並列分散計算における見込み計算は、実は人間の思考にも近いのです。私たちも同時にいろいろなことを考えますが、中には結局無駄になってしまうようなことも多いのです。でもそれを考えないと、事態に即応できないでしょう。


Q.並列計算への思いを教えてください。

 私が学生の頃はコンピューターというものは個人が持てるようなものではありませんでした。そこで、大学3年の時に空いているコンピューターがある研究室にお願いして使わせてもらっていました。
 その後は第5世代コンピューターの開発プロジェクトに携わり、この時に当時では珍しい512台のコンピューターで並列分散処理を行う機会を得ました。この時に並列分散処理の可能性と課題が分かりました。
 今でこそ並列分散計算はコンピューティングの主流になっていますが、私は当時からこの流れを確信していました。単一のコンピューターの性能向上がこれ以上あまり望めない中、膨大な計算を処理するために並列分散計算は極めて自然な解決策なのです。


Q.プログラミングの魅力はなんですか。

 プログラミングにはもの作りの楽しさがあります。ことに、プログラムは命令したことしかやらない代わり、命令したことは正確に行います。非常に単純明快です。人間を研究対象として扱う文系の学問の方がはるかに難しいでしょう。人間は命令したとおりには動かないし、命令以上の成果を出すこともありますからね。


Q.読者へのメッセージをお願いします。

 まずはいろいろなことに興味を持って、興味を抱いたことについてはどんどん勉強してみてください。そして異なる分野の最先端の知識を持つ人たちとアイディアを交換することで新しい発想を生み出す楽しさを知って欲しいです。
 大学の研究室には様々な研究している人が近くにいますし、隣の研究室をのぞいてみるのもいいでしょう。大学には気軽に質問をしあえて、切磋琢磨できる環境があることが、企業との大きな違いです。

(インタビュアー 郷原 浩之)

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