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Vol.33 8月号
回転体で支えるモバイル時代

  今回特集する精密工学科では精密加工やメカトロニクスなどに加えて知能システムやサービス工学に至るまで幅広いテーマで研究が行われています。その中でもユニークな「皿回しロボット」を扱っている保坂寛教授に研究から工学者はどうあるべきかという点までお話を伺いました。


情授

Q.先生の研究室ではどのようなテーマに取り組まれているのでしょうか?移動体センシングです。その中でいろいろ手がけています。第一に、人や物の位置を屋内外シームレスに測定する無線探査です。これは無線機の研究ではなく、電波情報に含まれるノイズの規則性を見つけて、位置を計算するソフトウェアの研究です。開発した技術は、物流用に企業化されています。第二に、腕時計や携帯電話に組み込んだセンサで人の行動を把握するウェアラブル行動認識です。主としてハードの研究ですが、過去の行動履歴から次の行動を予測するソフトも研究しています。第三に、これらモバイル機器用の電源として、ジャイロ型発電機を研究しています。Q.「皿回しロボット」というものを研究されているそうですが、それはどのようなものなのでしょうか?模型用モーターで棒を回転させ紙皿を回すものです。ハサミとドライバーだけで短時間で出来るので、五月祭や研究室公開で訪問者に作ってもらっています。今年は200台作りました。元々は精密工学科(前身のシステム創成学科)の3年生の「応用プロジェクト」で、学生のアイデアで開発し、理論解析を行ったものです。研究というより教育として取り組みました。現在では理論が完成し、単に回るだけでなく、コストや作り易さの改良も進み、最良と言える形が出来上がったので授業では扱っていません。Q.どのような経緯で現在の「皿回しロボット」が出来上がったのか教えてください。30年前、当時の精密機械工学科の3年生(佐々木健・現精密工学科教授ら)が五月祭で皿回しロボット作ったのが始まりです。彼らは芸人の皿回しを観察し、手を離しても皿が回ることから、機械的な振動でも回せると考えました。電磁石で棒を自励振動させるという手法で見事成功しました。とは言え、五月祭に間に合わせるのが精一杯で、回転条件の解明とまでは行かず、安定性にも難がありました。時は流れ2002年に「応用プロジェクト」でかつての佐々木先生の皿回しロボットを再現することになりました。ここでも最初は安定性が悪かったのですが、棒の根元を柔らかいもので支えると安定することが分り、ばねでモータを吊るし、基本構成が定まったのです。その翌年には、皿の動きを運動方程式を解いて求めました。その結果、①皿が扁平で糸底が小さい、②モータが自由に傾くように弾性支持する、③棒の回転数が棒の共振周波数より高い、という条件を満たせばどのような機構でも安定に皿を回せることが分かりました。以後はこの条件下で改良を重ね、特注品や高価なパーツを安価な市販品に換え、加工や組み立ても簡単にして現在の形になりました。皿回しは3次元の回転運動で、力学の中では直感的な理解が難しい分野です。一度深く勉強した経験がないと、どこにどういう力が働くのか、見当が付きません。このあたりはジャイロの研究が役に立ったと思います。皿回しロボットは産業上の応用がなく、理論的にもほぼ完成してしまったので、研究テーマにはしていません。しかし3年生の教育としては、工夫次第で性能が上がり、理論としてもモノづくりとしても良いテーマだったと思います。Q.ジャイロの研究というのはどのようなものですか。2次元の回転自由度をもったジャイロを使った振動発電機です。(下図)通常、人の動きによる振動を発電に利用すると、出力は1mW が限界です。しかしこの発電機は、ジャイロで低速の振動を高速な回転運動に変えて、1W を発電します。携帯電話も充電できます。現在はまだ安定性が低く、すぐに止まってしまうのですが、改良すればいろいろな使い道があると思います。Q.幅広い分野を研究されているようですがそれはなぜなのでしょうか?私の専門は機械振動で、応用分野は情報機器です。大学で研究を始めた頃に世の中のモバイル化が始まり、私は光ディスクの小型化をテーマにしました。しかし記憶装置のような、トレンドが決まった装置の改良は企業の方が得意で、数年で太刀打ち出来なくなりました。そこで新しい分野を探し、モバイル機器の電源に注目しました。回転体の振動を使うと面白い発電機が作れることに気づき、専門を変えずにテーマを変えることが出来ました。一方、無線探査はニーズに基づく研究です。企業の方が、物流に使える安くて小さい無線機はないかと相談にきました。当時は携帯電話が普及し始めた頃で、それを使えばハードはどんどん安くなり、消費電力が低い PHS を使えば一番小さくなると考えました。市販品の電池や外装を変え、余計な部品を省き、パレットの追跡用に実用化しました。カラスの追跡にも使われました。この時点では学術的な新規性はありませんでした。しかし商品化した PHS のデータを調べるうちに、物流機器の移動軌跡に規則性があることが分かり、これを使って誤差を補正する方法を思い付きました。その後は、商品の改良が新たな研究テーマを生むサイクルに入りました。皿回しロボットと同じ、試作・観察・改良です。Q.読者にメッセージをお願いします。工学は役に立つものを作る学問です。世の中のニーズに応じてテーマを変える必要があります。それをうまくやるコツは、一つの分野を深く研究することです。成功パターンを一つ知れば、2つ目に要する時間は半分以下、3つ目はさらに半分以下です。また、専門が異なるために新しいアイデアが出ることもあります。異分野との交流は大事ですが、自分で異分野を体験することはより重要です。まずは一つの分野を徹底的に深くやり、その後は世の中の動きを見て、専門を広げて下さい。(インタビュアー 藤島 孝太郎)


(インタビュアー )

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