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Vol.31 6月号
生命の仕組みに学ぶ材料化学

 化学生命工学科からは、加藤隆史教授のインタビューをお送りします。「次世代の物質・材料を作る」というキャッチフ レーズの下に、従来にない新しい物質・材料を続々と生み出している先生の研究は、多方面から熱い注目を浴びています。
  高校化学の教科書も執筆しておられる先生に、最先端の研究内容についてわかりやすい言葉でお話していただきました。


Q.先生のご研究の特徴について教えてください。

 生命の仕組みをお手本にして、機能を持った高分子や液晶をつくっています。高分子は高校の化学では最後の方に出てきますし、液晶も習いませんね。でも分子を扱うサイエンス&テクノロジーは実はとても面白い分野なんですよ。
 特に扱っている材料は「自己組織化するソフトマテリアル」です。自己組織化というのは、分子を合成すると、分子が構造を勝手に作ってくれる現象です。生体の中でもこの自己組織化がおこっています。この自己組織化を用いて機能を発揮する構造を作るというのが研究の特徴です。

工学系研究科 化学生命工学専攻
加藤隆史教授(中央)
 ソフトマテリアルというのは文字通り柔らかい材料のことです。D N A、神経、骨、細胞膜、などなど私たちの体を構成しているものは、全てソフトマテリアルであると言え、独自の機能を持っています。例えば神経は特定のイオンを通す機能を持った材料です。生体の仕組みの機能を参考にして、人工神経や人工筋肉を作ってみたいですね。

液晶の偏光顕微鏡写真

Q.具体的にはどんな材料を扱っているのですか?
 

 私が研究している材料の一つに「超分子液晶」というものがあります。テレビやパソコンのディスプレイなど幅広く利用されているあの液晶です。実は液晶は生体によく似た構造をもっているのです。このことを利用して、水素結合によって液晶分子を組み立てて、従来にない機能を持たせようとしています。特定の刺激に反応する機能、エネルギーや情報を蓄積する機能 自己修復する機能など様々な可能性が広がっています。また、これ(右写真)は研究室の院生が創り出した刺激に応答する超分子液晶です。紫外線を当てると、普段は黄色なのですが、こすったところだけ緑色に光ります。


こすると緑色に発光色が変わる液晶

Q.他にはどのようなご研究をされているのですか?

 私が最近興味をもっているのは、自然界の骨、真珠、カニの甲羅などに倣う材料です。このような生物によって自己組織的に作られる鉱物を、「バイオミネラル」といい、材料の観点からも多くの利点があります。
 第一に素材が持つ機能のすばらしさです。これは、高強度・軽量で柔軟性に富む非常に優れた材料です。カニの甲羅をむくときのことを考えると良くわかると思います。
 第二に環境への負荷が低いことです。バイオミネラルは自然界で生まれた物からできているので、廃棄しても分解されて自然界に戻っていきます。第三に少ないエネルギーで作れる事です。常温常圧という条件で作るため、自然にやさしく、コストの面でも大きなメリットがあります。このようなすばらしい特性を持つバイオミネラルの構造を手本にして、新しい材料をつくっています。

Q.どんな学生に来てほしいですか?

 知的好奇心のある人、物をいじるのが好きな人に来て欲しいですね。化学は単なる暗記科目ではありません。実は私がこの分野の本当の面白さを知ったのは、専門課程に進んで、創造的な研究の世界を知ってからです。私達は工学部なので、世の中の役に立つ化学を志向しています。化学は、論理的・実践的であるとともに世の中に影響をおよぼし、貢献することを実感できるとても面白い学問ですよ。

実験装置がずらりと並ぶ研究室では、学生達が熱心に実験に取り組んでいました。先生と学生の間では活発な議論が交わされていて、アットホームな雰囲気が印象的な研究室でした。


(インタビュアー 北野 美紗)

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