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Vol.31 2009年 6月号 化学・生命系3学科特集! |
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Vol.31 6月号
安全マネジメント・それを支える現象の科学的解明
大学、企業で重要になる安全のマネジメント。それを支えるのは起きている現象の解明です。
化学システム工学専攻が掲げるテーマの一つである安全、安心というテーマを背負う土橋律教授の研究室では、単純なようでその実まだまだ未知である燃焼という現象の解明に日夜迫っています。
Q.土橋先生の研究室ではどのような研究をされているのでしょうか?
私の専門は元々「燃焼」です。ものを燃やすというのは古くから研究されていますが、まだまだ解明されていないことも多い分野なのですね。この燃焼という切り口から、環境、安全という二つの分野が広がり、現在は燃焼、環境、安全という3分野での研究を行っています。環境というのは、燃焼により生成される燃焼排出物が問題になるため、燃焼と関連して研究分野として重要になってきました。 |
工学系研究科 化学システム工学専攻
土橋 律教授
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また、燃焼はうまく使うとエネルギー源になりますが、制御できないと火災、爆発など災害を引き起こすので、安全もまた燃焼と関連して重要になってきたのですね。安全工学を看板に、特に燃焼に絡む災害を扱っています。
安全確保という切り口は社会の変化からも益々重要になっています。日本は従来、行政法規による規制というのが強いものでした。しかし技術の高度化、多様化によって、これまでの法規では合わない、間に合わないということが頻繁に起こるようになってきました。そこで、もう少し自主的に、事業者が自分でその安全性、リスクを認識して自分で対策を取るという方向に、社会として軸足を動かすようになりました。十数年前から、法規を仕様規定から性能規定に変えることがおこなわれています。こういう寸法で作ってくださいというような仕様規定ではなく、こういう性能を満たすものを作ってください、作り方は性能を満たす限り自由です、というものです。このような性能の規定は、科学的根拠に基づいて決めることが重要であり、安全工学の研究の重要性が高まっています。
さて、どうリスクを評価し運用していくか、という安全のマネジメントの根元にはなぜその災害が起きているかを科学的に解明する、ということが必要です。安全という分野で私が担っている研究の主な部分は、こういった現象の解明ですね。
たとえば小麦粉の製粉工場で起こりうる粉の爆発、粉じん爆発。粉を空気中にまき散らして一定以上の濃度にして着火すると爆発をおこします。それがどういうメカニズムで起きているのか。どういう条件で火がついてどういう機構で伝ぱするか。これが分かってくれば、どうすれば粉じん爆発が防げるのか、あるいは爆発を抑制するにはどうすればいいのかが分かるわけです。
Q.先生の研究室の学生はどのようなテーマに取り組まれていますか?
ガス・粉じんの爆発、燃え拡がり、可燃物の難燃化の研究、それから、リスク評価に関するものなどですね。もう少し具体的に言うと、たとえば空気中にまき散らした粉がどうして爆発するのか。ロウソクが次々点火していくように粉から粉へ燃え移っていると考える人もいるのですが、私たちは、熱と反応のウェーブとして火炎が伝ぱしていくのではないかと考えています。
あるいは温度勾配による物質の移動。物質の輸送現象は、通常は濃度勾配により発生しますが、非常に小さい粒子については、温度の勾配によって物質が動く熱泳動という特異な現象が発生します。すすなどの微粒子に働く熱泳動現象について研究しています。
他にはフリースなど毛羽立った生地の燃焼。毛羽立たせると普通に燃やす場合の数十倍から百倍くらいの速度で燃えてしまう。 |
(上)気流を旋回させない
初期状態
(下)気流を旋回させた状態 |
これは表面の密度の低い部分だけが高速に燃える現象です(表面フラッシュ)。繊維材料の密度がある値以下になると燃え拡がり機構が変化し、高速伝ぱを起こすことが分かってきました。あるいは、火災旋風に関する研究。関東大震災は揺れよりも火災の被害の方が大きかった災害です。
中でも、被服廠跡では炎が竜巻のようになる大規模な火災旋風が発生し、約38,000人が亡くなってしまいました。旋回する気流と火炎が相互作用を起こすと、火炎が非常に大きくなります。旋回流中での火炎挙動よりはむしろ火炎の根元での可燃物への熱移動現象が効いていることが分かってきました。
いつもは安全管理室の教員として広報に出られることの多い土橋先生ですが、今回は研究のお話を中心にお伺いしました。燃焼の専門から安全、環境へと広がっていく様子から、研究分野の有機的広がり、つながりを実感できたインタビューでした。
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東京大学工学部・大学院工学系研究科 広報室学生アシスタント
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