各計画研究の概要

01

胎仔期生殖腺の性スペクトラム

研究代表者
立花 誠
大阪大学大学院生命機能研究科/教授
研究室 HP
  • 連携研究者
    黒木 俊介
    (徳島大学先端酵素学研究所/助教)
  • 連携研究者
    岡下 修己
    (徳島大学先端酵素学研究所/助教)
  • 連携研究者
    宮脇 慎吾
    (徳島大学先端酵素学研究所/助教)

概要

ほ乳類胎仔の性的に未分化な生殖腺は、Y染色体上の性決定遺伝子 Sry の機能によって精巣へと分化します。この過程がうまく進行しなかった場合、オス型とメス型の体細胞が混在する生殖腺、卵精巣を形成します。卵精巣は典型的な雌雄の中間的性質を有していることから、連続した性の表現型(性スペクトラム)を器官レベルで解析するための格好の材料となります。

私たちは、胎仔期生殖腺の Sry エピゲノム構造が卵精巣のオス化・メス化の度合いに強く相関することを見出しました。本研究では、マウス胎仔生殖腺の Sry エピゲノム構造を解析し、その構築に関わる分子基盤を明らかにすることで、生殖腺の性スペクトラム上の位置を規定する機構を理解していきます。

02

性染色体の起源と性スペクトラム関連遺伝子

研究代表者
菊池 潔
東京大学大学院農学生命科学研究科/教授
研究室 HP
  • 連携研究者
    細谷 将
    (東京大学大学院農学生命科学研究科/助教)

概要

多くの生物種で性染色体は組換え抑制により異形化しています。この組換え抑制のトリガーは、性決定遺伝子近傍に存在する「オス化やメス化の程度を変える遺伝子」であると推測されてきました。この遺伝子は本領域で示す新規の概念と照らし合わせれば、「性スペクトラム上の定位・移動に関る遺伝子」の一種と捉えることができます。しかし、モデル生物の性染色体は異形化が進みすぎているため、この仮説の検証はできず、組換え抑制がひろがっていくプロセスも不明でした。

最近、私たちは、異形化前後の染色体をもつ魚類群を見つけだしました。これらを利用して本研究では、性染色体の組換え抑制を起こす最初のきっかけと、抑制領域拡大のプロセスを解明します。

03

性染色体ヘテロクロマチンが規定する性スペクトラム

研究代表者
長尾 恒治
大阪大学大学院理学研究科/准教授
研究室 HP

概要

哺乳類のメスの体細胞では、遺伝子量補償のため2本のX染色体のうち一方が不活性化X染色体という巨大なヘテロクロマチン構造として核内に保持されています。この不活性化X染色体の凝縮構造は、我々が見いだしたSMCHD1-HBiX1複合体によって作られます。また性染色体の構造は、核内のヘテロクロマチン形成能を変化させることで、常染色体上の遺伝子の発現を制御しているという仮説が提唱されています。

そこで本研究ではSMCHD1-HBiX1に着目した解析を進めることで、性染色体ヘテロクロマチンが、細胞自律的な性スペクトラム上の位置を決めるという新しい視点を提供します。

01

性ステロイドが規定する性スペクトラム

研究代表者
諸橋 憲一郎
九州大学大学院医学研究院/主幹教授
研究室 HP
  • 研究分担者
    馬場 崇
    (九州大学大学院医学研究院/准教授)
  • 連携研究者
    大川 恭行
    (九州大学大学院医学研究院/教授)

概要

雌雄を連続するスペクトラムとして捉えれば、オス化・メス化のレベルとその変化を制御するメカニズムを理解することが重要です。本研究では、性ステロイドによる性スペクトラムの制御メカニズムの解明を目指します。実験では、性ステロイドの供給側として精巣ライディッヒ細胞を、受容側として骨格筋細胞を取り上げ、それぞれの細胞の性スペクトラムの制御メカニズム、ならびに供給側と受容側が共有する性スペクトラムの遺伝的制御基盤に焦点を当てます。

また、核内受容体型転写因子Ad4BPと性染色体上のヒストン修飾酵素遺伝子によって制御される代謝活性の強弱が、性スペクトラムの制御に関わることが示唆されており、この結果は本研究の重要な視点となっています。

02

ヒト性スペクトラムの分子基盤

研究代表者
深見 真紀
国立成育医療研究センター分子内分泌研究部/部長
研究室 HP
  • 研究分担者
    緒方 勤
    (浜松医科大学小児科/教授)

概要

最近、ヒトの性は単純に男女に分けられるものではないことがわかってきました。また、個体だけでなく各器官と細胞にもそれぞれ性があり、性的特性が加齢によって変化しうる可能性が見いだされました。

我々は、国内外の多くの医療機関から性分化疾患や生殖機能障害患者さんの臨床検体を集積しています。本研究では、これらの疾患患者さんおよび一般集団の遺伝子解析、および、細胞やモデル動物の解析などによって、ヒトの性スペクトラムの成立と位置の移動に関与する因子を解明します。これによってヒトの性の多様性を明らかとし、新たな「性」の概念を確立することを目指します。

03

魚類の脳における性スペクトラム

研究代表者
大久保 範聡
東京大学大学院農学生命科学研究科/准教授
研究室 HP

概要

魚類の脳の性は体内のホルモン環境に応じて、成熟後でも容易に逆転します。この現象は「魚類の脳は生涯にわたって性スペクトラム上を移動できる」ことの表れであると捉えられます。

我々は最近、メダカの性行動中枢に、ホルモン環境に応じて可逆的に出現・消失する特殊なニューロンを見出し、このニューロンが性行動のオス化、メス化の程度を決める機構の本体であることを示唆する知見を得ました。そこで本研究では、このニューロンに着目した解析を進めることで、魚類の脳の性、特に性行動パターンが、ホルモン環境に応じて(生殖腺の性に同調して)性スペクトラム上の位置を変える機構を明らかにします。

01

性転換をもたらす生殖腺の性スペクトラム

研究代表者
田中 実
名古屋大学大学院理学研究科/教授
研究室 HP
  • 研究分担者
    山本 耕裕
    (大阪医科大学医学部/助教)
  • 連携研究者
    重信 秀治
    (基礎生物学研究所生物機能解析センター/特任准教授)

概要

性転換は性スペクトラム上の位置を両極端に変化させる現象と捉えることができます。メダカは遺伝的に性が決まる動物で、胚中の生殖細胞数は雌雄によって異なります。この生殖細胞の数はメダカの性決定には重要で、生殖細胞の数を人為的に変化させると性転換を引き起こさせることができます。またエピゲノム状態を変えると、世代を超えて性転換が生じることも確認されています。

この実験系を用いて、栄養などの環境要因や内分泌変化によって性が転換する仕組みを明らかにします。また、エピゲノム修飾変化と性のスペクトラム上の位置変化との関係も解析し、遺伝的性決定動物が示す性スペクトラムの分子機構を明らかにします。

02

共生細菌による宿主性スペクトラムの撹乱

研究代表者
勝間 進
東京大学大学院農学生命科学研究科/准教授
研究室 HP
  • 研究分担者
    木内 隆史
    (東京大学大学院農学生命科学研究科/助教)

概要

自然界では、寄生体が昆虫の性操作を行うことが知られています。共生細菌ボルバキアは宿主の性や生殖システムを巧みに操作することから「動物界で最も成功している寄生者」といわれています。チョウ目昆虫では、ボルバキア感染が「オス殺し」や「細胞質不和合」などを引き起こします。

我々は、カイコにおける研究結果をヒントにして、ボルバキアが宿主のMasc遺伝子の発現を低下させることで遺伝子量補償機構を破綻させ、「オス殺し」を引き起こしていることを明らかにしました。しかし、ボルバキアがもつMasc制御因子の同定には至っていません。本計画研究では、寄生者であるボルバキアがいかにして宿主の性スペクトラム上の位置を撹乱し、個体の性を制御するのかを解明します。

03

温度環境に依存する性スペクトラム

研究代表者
宮川 信一
東京理科大学基礎工学部/准教授
研究室 HP
  • 研究分担者
    山田 源
    (和歌山県立医科大学先端医学研究所/教授)
  • 連携研究者
    齋藤 茂
    (自然科学研究機構岡崎統合バイオサイエンスセンター/助教)

概要

ワニやカメ類を含む爬虫類の性分化は、胚発生中の温度環境に依存します。この温度依存型性決定様式は「生殖腺の性が環境因子によってスペクトラム上を移動する」システムを巧みに利用していると考えられます。

私たちは、温度センサータンパク質であるTRPが性分化時の温度受容の起点であることを見いだし、温度依存型性決定解明の契機を得ました。本研究では、温度環境の変化による遺伝子発現変動および細胞内代謝を解析し、温度情報を生体内シグナルに変換するメカニズムを明らかにすることで、温度環境が性スペクトラム上の定位をもたらす分子基盤を解明します。