各公募研究(令和元〜2年度)の概要
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A01 遺伝要因と性スペクトラム
01
代謝調節を基盤とした生殖細胞の性スペクトラム制御機構の解明
概要
外部環境の変化に伴う細胞内代謝の調節は、シグナル応答やエピゲノムを介した広範な遺伝子発現の制御を通して、細胞の機能や分化など細胞活動のあらゆる局面で重要な役割を果たすことが明らかになってきています。一方で、精子や卵の源となる始原生殖細胞の性が雌雄に分かれる際、その後の雌雄に特有の分化を進行する際に代謝調節がどのような役割を果たすかは分かっていません。
我々はこれまでの研究で、この時期の生殖細胞の代謝状態を詳細に調べ、生殖細胞の代謝状態の雌雄差と分化に伴う変化を明らかにしてきました。本研究では、始原生殖細胞における性スペクトラムの成立、それに続く雌雄特有の分化過程での性スペクトラムの制御において、雌雄生殖細胞に特有の代謝調節が担う役割とその制御の仕組みを理解することを目指します。
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A01 遺伝要因と性スペクトラム
02
雌だけに限定されるベイツ型擬態の生存戦略と進化プロセス
概要
無毒な種が有毒な種に紋様を似せて捕食から逃れるベイツ型擬態は広範な動物にみられます。シロオビアゲハでは、オスと非擬態型のメスは同じ模様をしていますが、擬態したメスは毒蝶のベニモンアゲハに似せた異なる紋様を示します。また、オスは自分と同じ紋様の非擬態型のメスを好むといわれています。しかし、「なぜメスだけが擬態するのか」、「なぜ全てのメスが擬態型とならないのか」という疑問にはまだ明確な解答は得られていません。
本研究では、シロオビアゲハとナガサキアゲハという2種の近縁なアゲハチョウを用いて、擬態と性戦略が、擬態紋様を制御する主要な遺伝子doublesex(dsx)によりどのように制御されているかを明らかにしようとするものです。
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A01 遺伝要因と性スペクトラム
03
ポリアレリックな性決定遺伝子がもたらす性スペクトラム
概要
ハチ目昆虫の性決定遺伝子Csdはヘテロ接合であれば個体を雌に、ホモ接合であれば個体を雄にします。Csdはスプライシング因子をコードしており、異なるアレル由来のCsdが揃ったときだけ標的遺伝子の雌型スプライシングを誘導することで雌分化を引き起こしますが、その分子機構はわかっていません。Csdのアレル間多型は可変領域と呼ばれる領域に集中しており、この領域は今もなお中立進化を続けています。
私たちはCsdのスプライシング活性をvitroで評価できるアッセイ系を構築し、Csdのスプライシング活性にアレル間差異があることを突き止めました。本研究ではこの系を駆使し、タンパク質の機能とは無関係なはずの中立進化が性スペクトラムの定位をもたらす、というユニークな分子特性をもつCsdの分子機能の解明を目指します。
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A01 遺伝要因と性スペクトラム
04
イノシトールリン脂質によるステロイドホルモン産生酵素の制御と性スペクトラム
概要
哺乳動物の性は、生殖細胞を直接取り囲む支持細胞(顆粒膜細胞とセルトリ細胞)の性によって規定されています。私たちが作製した組織特異的遺伝子欠損マウスの表現型から、一部の顆粒膜細胞においてイノシトールリン脂質(PIPs)代謝の変調を導くと、支持細胞のオス化・メス化の度合いが変化すること、さらに血中のステロイドホルモンレベルが変化することを見出しております。支持細胞を用いた解析では、PIPsレベルの変動によりステロイドホルモン産生酵素の発現量が変化するとの予備知見を得ています。本研究ではこの分子機構を解明し、PIPsによる性スペクトラム制御のメカニズムを明らかにしたいと考えています。
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A01 遺伝要因と性スペクトラム
05
マウスES細胞から完全再構築した生殖巣オルガノイドを用いた性スペクトラムの理解
概要
私たちは性分化の主舞台となる生殖巣(雌:卵巣)様のオルガノイド(Ovarioid)を、マウスES細胞から生体での形成過程を模倣して構築することに成功しました。
卵巣は未分化生殖巣が雌性化して形成されます。これを構成する始原生殖細胞と体細胞を別個に誘導し凝集させて未分化生殖巣を再構築すると、雌性化して、卵とそれを取り囲む顆粒膜細胞などからなる卵胞構造を持つOvarioidが形成されます。Ovarioidの起点となるマウスES細胞は雌性化レポーター(Foxl2-tdTomato)を持つため、性分化は、体外で経時的に観察でき、レポーター活性を指標に定量できます。
本研究では、この画期的なモデル系を発展させ、様々な性分化状態の生殖巣オルガノイドを構築し、性スペクトラムを担う分子機構を解明することを目指します。
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A01 遺伝要因と性スペクトラム
06
転写装置の性差形成機構の解明
概要
雌雄の個体を構成するすべての細胞は「遺伝的な性」を持っており、性ホルモンの影響を受けずとも、遺伝子発現パターンの性差を生み出します。雄特有のY染色体には、精巣のみならず、あらゆる組織・器官に恒常的に発現する遺伝子がコードされており、それらの多くは機能未知ですが、蛋白質ドメインから推定すると転写制御に直接関わることが示唆されます。しかしながら、転写制御におけるY染色体遺伝子の役割、ひいては体細胞における機能については殆んど分かっていません。本研究では、Y染色体により制御されるエピジェネティックな遺伝子発現調節機構に焦点を当て、体細胞が持つ「性」の再定義を行います。
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A01 遺伝要因と性スペクトラム
07
肝臓の性差制御機構を利用した肝疾患治療法の開発
概要
肝臓は栄養物の代謝・貯蔵や外来薬物の分解を担う重要な臓器です。近年、食事の欧米化や運動不足によるメタボリックシンドロームとして、肝臓に過剰な脂肪が蓄積する非アルコール性脂肪肝炎(NASH)に伴う肝癌などが増加しています。
また肝臓の機能には性差があり、例えば薬物代謝酵素群の発現は男女で異なります。さらにNASHや肝癌の発症・病態の性差も報告されています。
最近、私たちは肝機能調節因子の網羅的探索からBcl6遺伝子が肝臓の性差の維持に重要なことを見出しました。Bcl6を肝臓で欠損したオスマウスは、生殖能力などは正常な一方で、肝臓の遺伝子発現などがメスに近い状態に変化します。そこで本研究では、肝臓の性差を生み出すBcl6下流の分子メカニズムを解明し、それらを利用した肝疾患治療法の開発を目指します。
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A01 遺伝要因と性スペクトラム
08
性スペクトラム関連遺伝子から探るカブトムシ角の性的二型形成の分子基盤
令和2年度途中で辞退
概要
本研究は、顕著な性的二型形質を示すカブトムシの角が、性決定遺伝子のRNAiにより性スペクトラムを示すことに着目します。性スペクトラム上の定位を規定するdoublesex遺伝子による遺伝子発現制御メカニズムや、エピジェネティックな遺伝子制御などを解析することにより、角の性的二型形成の分子機構を解明することを目指します。カブトムシは非モデル昆虫でありますが、研究代表者らが既に確立した遺伝子機能解析法(larval RNAi法など)及び次世代シーケンサーを用いた網羅的な解析を駆使することにより、分子レベルで解明したいと考えています。
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A01 遺伝要因と性スペクトラム
09
Y染色体上遺伝子とボディバランスの性スペクトラム
概要
ほ乳類の雌雄は、一見して容姿で見分けられるほど様々な部位で異なる表現型を示します。この表現型の違いはほとんどがY染色体の有無によって決定されていますが、個々のY染色体上の遺伝子がこれらの性スペクトラム表現型にどのように関わっているかは分かっていません。
前回の公募研究では、Y染色体上の様々な遺伝子のノックアウトマウスを作出し、それらの網羅的な表現型解析を行った結果、Y遺伝子ノックアウトによって形態的な性スペクトラム表現型が変動することを明らかにしてきました。そこで本研究では、これらのY遺伝子ノックアウトマウスについて、micro-CTなどの高解像度な形態解析を集中的に行うことで、代表的な性スペクトラム表現型である『ボディバランス』にY 染色体上遺伝子がどのように関与するかを明らかにします。
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A01 遺伝要因と性スペクトラム
10
哺乳類常染色体性決定遺伝子Sox9の発現量調節機構の解明
概要
哺乳類では、胎仔期の生殖腺でY染色体上に存在する性決定遺伝子Sryが発現すると雄、発現しないまたはSryが存在しないと雌に決定されます。SryがコードするSRYは、Sox9を活性化することで、胎仔の雄への分化を促します。Sox9の活性化が十分でなければ、雄と雌の中間の表現型となります。Sox9の発現量は哺乳類の性スペクトラムの一つの指標ととらえられます。
本研究では、Sox9が生殖腺で発現する際に必要な遠位エンハンサーに着目し、性決定/性分化の際に、遠位エンハンサーがどのような分子メカニズムで機能しているかを明らかにすることを目指します。
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A01 遺伝要因と性スペクトラム
11
トンボの性分化に関わる体色多型の分子機構
概要
トンボの成虫は、基本的に視覚で相手を認識することから、雌雄で翅や腹部の色彩・斑紋が著しく異なる種が多く存在します。興味深いことに、性的二型を示すトンボの幅広い種類で、体色や斑紋がオスに類似するメス(オス型メス)や、逆にメスに類似するオス(メス型オス)の出現が知られています。この現象は、生態学的な観点から研究が進められてきましたが、トンボの性分化や体色多型に関わる分子基盤は、ほとんど未解明です。
本研究では、トンボ複数種のメス多型、オス多型に着目しながら、(1)オスとメスの見た目の性差に関与する分子基盤、および(2)性分化に関わる体色多型の原因遺伝子を解明することを目指します。
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A01 遺伝要因と性スペクトラム
12
性染色体上ヒストン脱メチル化酵素により構築される性スペクトラム
令和2年度途中から参画
概要
哺乳動物の性は性染色体の遺伝的性により決定され、Sryが性決定遺伝子として同定されています。しかし、Sryは哺乳類特異的遺伝子であり、種間を超えた正常な性スペクトラムの構築には性染色体上遺伝子群による別の制御機構の存在が考えられます。
これまでに種間並びに性決定様式を超えた性分化制御の候補としてヒストンH3リジン27(H3K27)メチル化制御が示唆されていますが、性染色体にコードされるH3K27脱メチル化酵素UTX・UTYはそれぞれ活性強度が異なるため、その機能的差異により性スペクトラム構築に関与する可能性が考えられます。
本研究ではUTXあるいはUTYの活性を変化させることで性の表現型がどのように影響を受けるか調べ、種を超えて共通した性分化制御機構の解明を目指します。
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A02 内分泌要因と性スペクトラム
01
超短命モデル脊椎動物を用いた生涯にわたる「性トラジェクトリ」の解明
概要
性は集団としてみた場合だけでなく、各個体の中でも揺らぐものです。例えば、雌雄が転換する生物が存在することや、性が転換しない生物でも、性ホルモンのバランスにより様々な性的特徴が雌雄の間で柔軟に揺らぐことがわかっています。しかし、このように生活史の中で揺らぐ性の道筋、いわば「性トラジェクトリ」を生涯にわたって解析した例はありません。
本研究は、新たな老化モデル動物として注目されている超短命魚ターコイズキリフィッシュを用いることで、脊椎動物の生涯にわたる性トラジェクトリの実態を明らかにし、同じく揺らぎの大きい現象である老化との関係の理解を目指します。さらに、脊椎動物の性と老化両方に影響を与えうる要因の一つとして生殖細胞にも着目し、生殖細胞が両者に与える影響やその分子メカニズムの解明を目指します。
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A02 内分泌要因と性スペクトラム
02
配偶戦略の性スペクトラムを生み出す分子神経基盤の解明
概要
メダカの配偶戦略は性的二型であり、メスは長時間そばにいた親密なオスを性的パートナーとして積極的に選択する傾向があります。一方でオスは親密性に依存した異性の好みを持ちません。
最近、オキシトシンシステム(OXTまたはOXT受容体)を破壊した変異体メダカの行動解析をした結果、メスは異性の好みを失い、オスに親密なメスに対して好みが生じることを発見しました。よってメダカの配偶者選択においてオキシトシンシステムの役割には性差があり、オスとメスで逆の方向に働くと考えられます。本研究ではオスとメスのオキシトシンシステム発現機序を比較することで、配偶戦略の性差を生み出す分子神経基盤を解明することを目指します。
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A02 内分泌要因と性スペクトラム
03
二次性徴の性スペクトラム「アンドロゲンによる組織特異性とサイズ調節の分子機構」
概要
アンドロゲンによって誘導される種特異的な雄の外部形態や繁殖行動は、種分化の機構である生殖隔離に貢献し、生物多様性の創出や維持に重要な役割を果たします。しかし、二次性徴形質の多様性の根源である組織特異性及びサイズ(強弱)がどのように制御されているのか、その分子機構はよく分かっていません。
最近、私たちは、未分化間葉細胞からなる司令塔様細胞集団が形成されることが、二次性徴発現の初段階として必須であることを見出しました。本研究では、二次性徴の司令塔様細胞集団の成立と維持を導く遺伝子発現、クロマチン動態から、二次性徴を特徴付けるARの組織特異的な機能発現の分子機構の解明を目指します。さらにこの細胞集団を中心とした組織間相互作用によるサイズ制御の分子機構を理解し、性分化疾患発症メカニズムの理解と解明に貢献します。
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A03 環境要因と性スペクトラム
01
環境要因によりミジンコの性が雌雄に定位されるメカニズムの解明
概要
ミジンコは個体密度上昇などの環境変化に応答してメスと遺伝的に同一のオスを産みます。環境変化に応答して発現するダブルセックス1(Dsx1)遺伝子の活性を人為的に減少させると性スペクトラム上の位置がオスからメスへと移動します。しかし、自然界では間性個体はほとんど報告されていません。
私たちは、二値的に雌雄が産み出されるために、メスではDsx1が転写後、エピゲノムのレベルで二重に抑制されている可能性を見出しました。一方で、オスでは長鎖非コードRNA、ダパールによってDsx1発現が脱抑制されることを見つけました。そこで本研究では、メスを規定するDsx1の転写後制御、エピゲノム修飾、そしてダパールによってDsx1が脱抑制される機構を明らかにし、環境要因によってどのように性スペクトラム上の位置が決定されるかを解明します。
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A03 環境要因と性スペクトラム
02
社会による性スペクトラムの獲得とその神経回路の解明
概要
性の戦略は決して2極化だけが優位に働くわけではありません。オスらしさを隠蔽し、オス同士の激しい競争から逃れつつ、繁殖の機会を狙うという戦略が魚類や鳥類で認められており、オスの多様な表現型、すなわち性スペクトルとして知られてきました。
申請者は、前期公募研究において、オスマウスがメスに向けて発する超音波音声(ultrasonic vocalizations, USVs)には発声頻度や構造に幅広い多様性が存在し、オスの性スペクトラム表現型であることを見出しました。このUSVsスペクトラムの形成は、性染色体に依存しないこと、周産期と発達期のテストステロンによる神経回路形成、特に主嗅球から扁桃体内側核前部に投与する回路が支配していること、成熟後でも社会的文脈によって、オスマウスがUSVsの構造を使い分けていることが明らかになりました。その中で、母子間や社会的関係性によってUSVsがスペクトラム型を獲得すること、つまり「社会による性スペクトラムの獲得」を見出しました。そこで本申請では前期の成果をさらに発展させ、「社会による性スペクトラムの獲得」を、内分泌要因と神経回路形成の観点から明らかにします。