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( Last updated: Sep. 06, 2024 )


【 2024年8月 】非クラマース二重項系PrIr2Zn20における異方性の強い磁場誘起相ポケットの発見
2024年8月のTopicsの図1
立方晶化合物PrIr2Zn20は非クラマース二重項のΓ3結晶場基底状態を持ち、TQ=0.11 Kで反強四極子秩序を示すことが知られています。 本研究では、反強四重極秩序相境界近傍に磁場で誘起される小さな相ポケット(A相)が存在することを熱力学的に明らかにしました。具体的には、温度・磁場・磁場角度の関数として比熱を精密に測定し、第二の比熱異常が[001]方向付近の比較的広い磁場角度範囲で観測されることを見出しました。さらに、回転磁気熱量効果も測定し、A相におけるエントロピー変化についても評価しました。中間磁場領域で相境界付近の高温でのみ発現する磁場誘起相ポケットは、磁気双極子モーメントが不活性なΓ3二重項系においては前例がなく、多極子自由度に起因する多様な秩序状態の更なる理解へと繋がることが期待されます。本研究成果をまとめた論文はアメリカ物理学会が刊行する学術雑誌「Physical Review B」に掲載されました



【 2023年6月 】精密磁歪測定から明らかにしたCeCoIn5のFFLO超伝導の空間変調ベクトル
2023年6月のTopicsの図1
CeCoIn5は超伝導1次相転移を伴う強いパウリ常磁性効果を示し、ab面方向の磁場下ではクーパー対の合成運動量が0でないFFLO超伝導の実現が有力視されています。一方、c軸方向の磁場下では、ab面と同様に強いパウリ常磁性効果が観測されていますが、FFLO超伝導の実現可能性は未だ議論の渦中にあります。そこで、本研究では自作の高感度キャパシタンス式膨張計を開発し、それを用いてc軸方向の磁場下における磁歪測定を0.1 Kの極低温まで行いました。その結果、c軸磁場下の上部臨界磁場近傍でc軸方向の磁歪は2段構造を示しますが、a軸方向の磁歪は単一の相転移しか示さないことが明らかになりました。本結果は、FFLO超伝導の空間変調ベクトルが磁場方向に平行であり、FFLO相転移において異方的な試料長変化が起きていることを支持しています。本研究成果をまとめた論文はアメリカ物理学会が刊行する学術雑誌「Physical Review B」にLetterとして掲載されました



【 2021年5月 】非フェルミ液体的性質を示すCeRhSnの磁場角度分解エントロピー相図
2021年5月のTopicsの図1
CeRhSnはCe原子が擬カゴメ格子を形成しており、スピンの幾何学的フラストレーションが重要な役割を担うと期待されています。先行研究において、ゼロ磁場で非フェルミ液体的性質が報告されており、一般的な金属とは異なる電子状態にあることが明らかにされています。この非フェルミ液体的性質は方位によらず磁場に対して敏感に抑制されることが実験から明らかにされ、磁気フラストレーションによる量子臨界性の可能性が指摘されています。本研究では、CeRhSnが強いイジング異方性を示すことに着目し、非フェルミ液体的性質の磁場角度に対する応答を詳しく調べました。その結果、擬カゴメ格子面近傍のごく狭い角度範囲に磁場をかけると高磁場まで非フェルミ液体的性質(高エントロピー状態)が保持されることを見出しました。さらにその磁場方位のもとでは、低磁場領域でエントロピープラトーが現れることやメタ磁性転移磁場に達すると非フェルミ液体的性質が消失することも明らかにしました。本結果は、c軸方向のイジングスピンゆらぎが異常金属状態の起源となっていることを示唆しています。また、磁場角度分解エントロピー相図から、磁気フラストレーションよりもむしろCeの価数変化が物性を制御する鍵となっている可能性を指摘しました。本研究成果をまとめた論文は日本物理学会が刊行する学術雑誌「Journal of the Physical Society of Japan」に掲載されました



【 2020年7月 】UTe2がノンユニタリースピン三重項超伝導体である可能性を提案
2020年7月のTopicsの図1
近年、UTe2の強磁性量子臨界点近傍で超伝導が発見されホットな話題となっています。パウリリミットを超える上部臨界磁場やスピン磁化率の減少が極めて小さいことなどから、スピン三重項超伝導状態が実現していると期待されています。超伝導秩序変数を決定するためには超伝導ギャップ構造が重要な鍵となりますが、これまでにポイントノードの存在を示唆する実験結果がいくつか報告されているものの、ノードの位置情報については明らかになっていませんでした。本研究では超伝導ギャップの異方性に関する情報を得るために、UTe2の純良単結晶試料を用いて極低温比熱の磁場角度依存性を詳しく調べました。まず、背後にある常伝導状態について調べたところ、a軸に平行な磁場成分が増大すると比熱が有意に変化し、この系ではa軸方向のスピンゆらぎが重要な役割を持つことを明らかにしました。その上で超伝導状態における比熱の磁場角度依存性を詳しく調べた結果、超伝導ギャップのa軸方向にポイントノードがあることを示唆する特徴的な比熱の振る舞いを見出しました。このようなギャップ構造は複数の秩序変数を有するノンユニタリーのスピン三重項超伝導状態と相性が良く、UTe2の秩序変数の有力候補として(b+ic)(kb+ikc)を提案しました。さらに、a軸方向の磁場下ではTcが目立って抑制されることも見出し、容易軸方向の磁化がノンユニタリー状態の秩序変数を制御していると考えればGL理論の枠組みで本現象も定性的に理解できることを示しました。本研究成果をまとめた論文はアメリカ物理学会が刊行するオープンアクセス学術雑誌「Physical Review Research」に掲載されました