市販の厚膜チップ抵抗器の温度依存性

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( Last updated: Sep. 03, 2024 )


こちらのページでは、当研究室でこれまでに測定した市販の厚膜チップ抵抗器の温度依存性を公開しています(ゼロ磁場)。
下の表中の「select」にマウスカーソルを合わせれば、個別の結果を図2に表示できます。
※2020年4月に中央大学に異動後は、VTIを用いて室温までの温度依存性の測定も始めました。


- Temperature dependence of thick film chip resistors -

厚膜チップ抵抗器の温度依存性
図1 : 市販の厚膜チップ抵抗器の温度依存性(左)。0.6 Kにおける抵抗値で規格化した結果(右)。

- Resistor information -

Supplier Type R(300 K) R(0.6 K) Size (mm2) Fig. 2 @LT Fig. 2 @HT Link
S. Corp. RO-600 1 kΩ 3.3 kΩ 1.3 × 1.3 select - link
K. Corp. RK73B-1E-202 2 kΩ 5.7 kΩ 1.0 × 0.5 select - link
K. Corp. RK73B-1F-822 8.2 kΩ - 0.4 × 0.2 - select link
K. Corp. RK73B-1F-682 6.8 kΩ - 0.4 × 0.2 - select link
K. Corp. RK73B-1F-622 6.2 kΩ 12 kΩ 0.4 × 0.2 select - link
K. Corp. RK73B-1F-392 3.9 kΩ 6.1 kΩ 0.4 × 0.2 select - link
K. Corp. RK73B-1F-202 2 kΩ 3.0 kΩ 0.4 × 0.2 select - link
K. Corp. RK73B-1F-102 1 kΩ 1.9 kΩ 0.4 × 0.2 select - link
P. Corp. ERJ-2GE-302 3.0 kΩ - 1.0 × 0.5 - select link
P. Corp. ERJ-1GN-2001 2 kΩ 5.5 kΩ 0.6 × 0.3 select - link
P. Corp. ERJ-XGN-822 8.2 kΩ 39 kΩ 0.4 × 0.2 select select link
P. Corp. ERJ-XGN-682 6.8 kΩ 18 kΩ 0.4 × 0.2 select - link
P. Corp. ERJ-XGN-392 3.9 kΩ 8.3 kΩ 0.4 × 0.2 select - link
P. Corp. ERJ-XGN-561 560 Ω 1.1 kΩ 0.4 × 0.2 select - link
P. Corp. ERJ-XGN-221 220 Ω 370 Ω 0.4 × 0.2 select - link
R. Corp. MCR004-822 8.2 kΩ 20 kΩ 0.4 × 0.2 select select link
R. Corp. MCR004-622 6.2 kΩ 16 kΩ 0.4 × 0.2 select select link
R. Corp. MCR004-241 240 Ω 290 Ω 0.4 × 0.2 select - link
R. Corp. SMR003-103 10 kΩ - 0.3 × 0.15 - select link
K.E. Corp. RMC1/32-822 8.2 kΩ 55 kΩ 0.4 × 0.2 select - link
K.E. Corp. RMC1/32-622 6.2 kΩ 22 kΩ 0.4 × 0.2 select - link
Y. Corp. RC0100-8K2 8.2 kΩ 22 kΩ 0.4 × 0.2 select select link

R(300 K)は公称値です。抵抗値には個体差があるので、注意してください。

※温度計として使用される場合には、事前にthermal cyclingしておくことをお勧めします。


- Figure 2 (selected resistor) -

選択した温度計
図2 : 表中で「select」した抵抗器の温度依存性。


その他の温度計(参考)

Pt100 select
Cernox(W-CX-1050-SD-HT) select

まとめ

安価で小型な抵抗温度計を求めて、様々な市販の厚膜チップ抵抗器の温度依存性を調べました。調べた中で最適と思われる小型(0.4 × 0.2 mm2)の抵抗温度計は、3He温度域では「XGN-822」または「RMC1/32-822」、希釈冷凍機温度域では「MCR004-622」や「RK73B-1F-622」です。4 K以上の高温領域では、「MCR004-822」や「MCR004-622」は抵抗の極小が60 K付近に現れるため、温度計には適しません。一方、「XGN-822」は降温時に抵抗値が単調に増加し、低分解能ですが高温でも温度計に適した温度依存性を示します。より小型(0.3 × 0.15 mm2)のチップ抵抗「SMR003-103」は低温でオーム則が破綻し、温度計としては不向きでした。

今後も新しい情報が得られ次第、本ページを更新します。小型の抵抗温度計をお探しの方の参考になれば幸いです。


謝辞

松本洋介、加瀬直樹、米澤進吾各氏から有益な情報をいただきました。また、高温領域での測定に取り組んでくれた中央大学2020, 2021年度橘高研卒研生の皆さん、実験指導にあたってくれた助教の河野洋平氏に感謝します。


更新履歴

2024.09.03
当サイトを「中央大学 極限凝縮系物性研究室のホームページ」から「東京大学 橘高研究室のホームページ」に移設しました。
2022.10.12
「RC01008K2」の低温データを追加しました。
2022.02.09
2021年度卒研生が測定した高温領域のデータ(1F822, 1F682, 2GE302, SMR103, RC01008K2@HT)および参考データ(Cernox, Pt100)を追加しました。
2021.04.10
2020年度卒研生が測定した高温領域のデータ(XGN822, MCR822, MCR622@HT)を追加しました。
2017.11.10
リンク切れを修正しました。
2015.06.11
「MCR004-822」、「RMC1/32-822」、「RMC1/32-622」の情報を追加しました。
2015.01.23
「MCR004-622」の情報を追加しました。
2015.01.20
表中の抵抗器の温度依存性を個別に表示できるようにしました。
2015.01.15
「市販の厚膜チップ抵抗器の温度依存性」のページを公開しました。


~ 余談 ~

温度計に適した小型の厚膜チップ抵抗器を探索し始めた経緯

抵抗温度計としては抵抗値が最大で100 kΩ以下、かつ温度変化の大きいものが理想です。上で紹介した抵抗器の中では、S社のRO-600が磁場中でも利用可能なルテニウム酸化物温度計(Ruthenium Oxide Sensor)として売り出しているだけあって理想的な振る舞いを示しています。そのため、これまでは低温用温度計としてRO-600を購入して使用してきました。ところが、比熱測定用セルの温度計として使用していたところ、図3に四角()印で示すようにチップ抵抗自身の比熱が低温でショットキー型の異常を示し、大きなバックグラウンドの要因となっていることが分かりました。

アデンダ比熱異常
図3 : 温度計に厚膜チップ抵抗器を用いた比熱測定用セルのアデンダ比熱異常。温度計にRO-600を用いた旧型セル[四角()印]と小型チップ抵抗(cut-XGN-822)を用いた新型セル[丸()印]の結果(温度計以外にもステージやヒーターなどの比熱を含む)。T=0.1 Kでは0.1 T付近に顕著な比熱のピークが現れる(チップ抵抗器のサイズを小さくすると比熱異常も小さくなる)。

試料の比熱がアデンダ比熱に比べて十分大きいときには問題になりませんが、試料の比熱が小さいときにはこの比熱異常は無視できなくなります。試料とアデンダの比熱がcomparableになってくると、アデンダ比熱を完全に差し引くことも困難になるため、高精度に比熱を測定することができなくなります。そこで、アデンダ比熱を抑えることを目的として、小型の抵抗温度計探索を開始しました。時間があるときに市販の厚膜チップ抵抗器の温度依存性を調べた結果が図1です。小型な0.4 mm × 0.2 mmの抵抗器でも温度計として使用できるものがあることが分かりました。中でも、P社のXGN-822が最も大きな温度変化を示し(図1右)、3He冷凍機の温度範囲では高精度な温度計として使用することができます。ところが、XGN-822の抵抗値は0.3 K以下で100 kΩを超えてしまうので(図1左)、希釈冷凍機温度での使用には適しません(熱雑音のため)。そこで、希釈冷凍機ではK社の1F-622やP社のXGN-682を温度計として使用するようになりました(2014年12月当時)。


厚膜チップ抵抗器を切断することによる更なる温度計の小型化(2014年12月)

更に小型の温度計が得られないか、温度変化の大きいXGN-822を希釈冷凍機温度でも温度計として使用できないかと考えていたところ、XGN-822を図4左図のように切断することで抵抗値を下げかつ小型化も行うというアイデアに至りました。図4右図のような抵抗器切断機を自作してXGN-822の切断を試みたところ、抵抗器を破壊することなく切断することができました。

自作の抵抗器切断機
図4 : 厚膜チップ抵抗器の切断方向(左)および自作の抵抗器切断機(右)。

切断したXGN-822(cut-XGN-822)の中から、室温での抵抗値が5.8 kΩと2.6 kΩの個体を選択し、低温で抵抗値の温度依存性を測定した結果が図5です。抵抗器の切断によって低温での抵抗値の温度変化は若干抑制されてしまいましたが、それでも1F-622やXGN-682と比べて大きな温度変化を示し、温度計として好ましい条件にあることが分かります。また、幸運なことに切断することによって低温での抵抗値も抑制されて2.6 kΩの個体は希釈冷凍機温度まで温度計として使用することができるようになりました。新たに作成した比熱測定用セルではこの2.6 kΩの個体を温度計として使用することでアデンダ比熱異常を大きく抑制することに成功しています[図3丸()印]。

切断したXGN-822抵抗器の温度依存性
図5 : 切断したXGN-822(cut-XGN-822)の温度依存性。凡例の括弧の中は室温での抵抗値。比較として、1F-622, XGN-682, XGN-822の結果も載せた。