2024.02.03 写真館＠中央大学橘高研究室

2023年11月14日、希釈冷凍機に不具合が発生し、極低温に到達することが出来なくなってしまいました。真空管（Inner vacuum can: IVC）内部に微小リークが発生し、ヘリウムガスが断熱空間に漏れ出たことが原因です。希釈冷凍機のリーク修理は2022年にも経験しており、まぁ何とかなるだろうと考えながら修理対応を始めました。

まずはリークディテクターを用いて調べましたが、リーク箇所を特定することは出来ません。そこで、ひとまず1Kラインのインジウムシールを全て交換してみることにしました。その結果、一旦はリーク症状が消えてホッと一息…つく間もなく、冷却テスト後に室温に戻すとリークが再発してしまいました。この頃はインジウムシールの不具合が原因だろうと楽観視していましたが、非常に厄介な問題へと発展していきました。

12月5日、再度シール交換を行いましたが、今度は1Kインピーダンスが取りつけられているコネクタ部（カップリングフランジ）のインジウムシールに明確なリーク反応が現れるようになりました（後に分かったことですが、このコネクタは上下2ヶ所でシールされていて片方しかシール交換していなかったことが原因でした）。ネジの増し締めを繰り返した結果、状況は悪化。強いトルクを受けた影響で、コネクタと配管の継ぎ目部分の銀ロウに新たなリークが発生してしまいました。その配管は冷凍機に直結しており、前回のように取り外して修理することはできません。希釈冷凍機本体の銀ロウ修理は未経験でしたが、Oxfordの担当者の方からアドバイスを頂きながら自力で修理を行うことにしました。

12月8日、修理したい部位を希釈冷凍機本体から遠ざけるように配管を曲げ、問題の銀ロウ接合部をフラックスが馴染み易いように紙やすりで磨きました。エタノールで洗浄後、銀ロウ接合部にフラックス（東洋溶材、F-300）を塗り、配管は湿らせたキムワイプで保護した上で輻射を防ぐために修理部以外はアルミホイルで覆いました（炎が近づくと穴が開くので注意）。河野助教がガストーチ（Prince, GB-2001）の細い炎を慎重に操り、銀ロウ接合部を溶かすことに成功。水をかけて冷却した後、変色した部位を紙やすりで磨き、フラックスを除去します。リークチェックをしてみると、残念ながらリーク反応は消えていませんでした。12月12日に再挑戦するも結果は変わらず、その翌日の3度目の挑戦でようやく大きなリーク反応を消すことが出来ました。新たに銀ロウを盛った影響で止めネジが締まらなくなる不具合が生じましたが、スペーサーを挟むことで上手く対処しました。

12月15日、リーク問題が発覚してから既に1カ月が経過。銀ロウ接合部の漏れは直ったので試しに希釈冷凍機を冷やしてみることにしました。目立ったリーク症状は見られませんでしたが、1K potのクーリングパワーが弱まっており、冷凍機が正常に冷えません。引き上げて調べたところ、インピーダンス配管の入口にインジウムが詰まっている不具合を見つけました。詰まったインジウムは取り除くことが出来なかったため、インピーダンス配管の端を恐る恐る切り落としたところ（河野助教の提案）、幸いにも詰まりは解消しました。

年の瀬が迫る12月27日、2023年最後の冷却テストです。温度を50 mK以下まで冷やすことに成功し、リーク問題も1Kラインの詰まりも解消した…かと思われましたが、3日後の12月30日に冷凍機が再度冷えなくなりました。1Kラインに微小リークが残っていたようで、IVC内の真空断熱が徐々に悪くなったことが原因でした。結局、リーク問題は2024年へと持ち越すことになりました。

年が明けた2024年1月4日、IVCを外して1Kラインのリークテストを行いましたが、相変わらず目立ったリーク反応は見られません。一方、IVCを取りつけて真空引きをしてみると、1Kラインをヘリウムガスで満たしたときにIVC内部にリーク反応が見られました。再度、シール交換をしてみましたが、やはり3日しか極低温環境を維持することができません。1Kラインを真空引きすることで配管が収縮してリーク反応が一時的に抑制されている可能性も考えられ、徐々に見通しが悪くなってきました。

3日間だけ利用可能な希釈冷凍機として運用することも検討し始める中、どうやら1Kラインのインピーダンスよりも取込口側にリークがあるらしいことが分かってきました（1Kポンプを作動させて取込口からヘリウムを吸わせたときにIVC内のリーク反応が大きくなる）。そこで1月29日、この新情報を手掛かりに疑わしい箇所を入念にチェックした結果、ヘリウム取込口の螺旋状の配管部分（IVC取り付け時に力が加わる部位）に手で力を加えると弱いリーク反応が現れることを突き止めました。螺旋状配管の根元に微小リークがあることを確認し、河野助教が慣れた手つきで銀ロウ補強を行った結果、リーク反応は消えて3日以上極低温環境を維持できるようになりました。修理対応が長期化しましたが、これでようやく希釈冷凍機の完全復活です。

2か月以上に渡る厄介なトラブルでしたが、低温実験屋としては大変良い経験になりました。親身に相談にのってくださった関係者の皆様、どうもありがとうございました。希釈冷凍機は購入から20年以上が経過し、不具合が頻発しているので、代替品の購入が今後の重要課題になりそうです。

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