「中東大変動の構造と力学:世界史のなかの「アラブの春」」

UTCMES公開講演会開催報告

 2011年度の当センターの活動の締めくくりとして、センター長の山内昌之教授による公開講演会が、読売新聞国際ジャーナリズム寄付講座との共催で開催されました。本講演会は、2012年3月をもって東京大学を退任される同教授の最終講義に代わるものでもあり、講演に先立ち、長谷川壽一大学院総合文化研究科長による本センターの紹介、そして古矢旬グローバル地域研究機構長による山内教授の紹介がありました。
 
 山内教授は、歴史学の方法論に基づいて、前年の「アラブの春」とその構造とをいかにとらえるべきかという問題について報告を行ないました。初めに歴史上の事象を捉え分析するにあたって重要な、「時間」「因果関係」「構造」「比較」の諸要素について説明しました。そして「アラブの春」に至る構造変動の差し当たりの起点として、山内教授は2003年のイラク戦争に着目し、イラク戦争後にアメリカおよびイスラエルと提携するエジプトやサウジアラビアなどの「アラブ穏健派」と、イラン及びシリアという「急進派同盟」との対立構造が登場し、この二極間のバランスが(1)イラク撤退によるアメリカの中東政策の求心力低下、(2)アラブの民主化運動の国境を越えた広がり、そして(3)イランの影響力の退潮とトルコの新外交の台頭により、大きく変化したことが、中東の地政学的構造は大きく変容し、昨年の一連の出来事を生むことにつながったと論じました。そして今後の中東情勢への展望を示しました。
 
 講演会を締めくくるに当たり、山内教授は30年にわたる自らの駒場での教育・研究活動についての回顧を行ないました。日本や中国の古典文芸に惹かれる心と中東イスラーム地域の歴史家としての職責との間の緊張関係、国境を超える学問研究の本義と国家・社会に貢献したいという心との間の緊張関係の中にあった心情が語られました。そして駒場での活動に幕を引くに当たっての「骸骨を乞う」(司馬遷『史記』項羽本紀)という心境を披瀝する一方、世阿弥『風姿花伝』の「初心忘るべからず。時々の初心忘るべからず。老後の初心忘るべからず」という言葉を引いて、今現在の「初心」をもって、今後とも研究活動、社会貢献のための活動に取り組んでいく決意を示しました。
 
 この日は晴天にも恵まれ、900番教室を埋め尽くす500人前後の聴衆が詰めかけました。ご来場、まことにありがとうございました。