第6回「エジプト革命 アラブ世界変動の行方」

2012年度中東イスラーム世界セミナーの実施報告

講師:長沢栄治(東京大学東洋文化研究所教授)
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 2012年7月6日金曜日に、駒場キャンパス18号館コラボレーションルーム1にて、第6回中東イスラーム世界セミナー「エジプト革命 アラブ世界変動の行方」が開催されました。司会者によるセミナーの概要と講師の説明に続いて、今回の講師である長沢栄治・東京大学東洋文化研究所教授から、掲題についての講義がありました。

 セミナーの冒頭、長沢講師は、革命の期間に出版された書籍、そして現在のエジプト国内の写真がプロジェクタで紹介しました。続いて長沢講師は、今回の一連の動きは一国にとどまらずアラブ世界に広がった点において1848年ヨーロッパ革命と共通すること、またアラブ世界に広がった理由として、アラブそれぞれの国の成熟や、グローバル化の流れなどもあげられると論じました。そして今回のアラブ世界で起きた変動は革命としてとらえられ、この革命は1952年にナセルによってエジプトではじまり、50年代のアラブ諸国に変革をもたらした「第一次アラブ革命」に続く、「第二次アラブ革命」として位置づけられること、また今回の革命は、アラブ的全体主義体制の形成、またオイルマネーによる延命という形に終わった、前回のアラブ革命の反動的帰結であるとしました。

 また今回のエジプト革命を社会運動の歴史から考えるとき、すでに近代エジプトでは、18世紀末の反仏占領軍闘争に始まる、4つの革命が起きていたこと、今回の運動の担い手はナセル革命を体験した1940年世代、ナセル体制批判を展開した70年世代、そして若者世代からなるとしました。そしてこの若者世代は、今回の革命を主導した世代として、エジプト人の「運動の集合的記憶」のなかで生き続ける可能性を指摘しました。また、エジプト大統領選挙の立候補者の共通点などを指摘しました。そして大統領選後の展望として、新内閣の組閣、憲法起草委員会、また軍部の動向がカギになること、また新自由主義路線の継続という経済政策、また対中東和平をはじめとする対外政策も重要な政策課題になるとまとめました。

 最後に、アラブ革命後の新時代について、革命の意義や今後の展開は未だ不透明であるものの、革命の中で新たな文化の息吹が生まれたこと、その文化は口語と文語、知識人と庶民との格差を取り払う口語文化として特徴づけられるとしました。そして長沢講師は、思想や文化は知識人の思弁から生まれるのではなく、実際の社会的な運動やそこでのコミュニケーションから創出されるとし、エジプトで文化のみならず、社会全体の改革がおこなわれることを願うと結びました。