第2回「サウジアラビアと『アラブの春』:レンティア国家と民主化問題」

2012年度中東イスラーム世界セミナーの実施報告

講師:福田安志(ジェトロ・アジア経済研究所研究員)
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 2012年5月11日金曜日に、駒場キャンパス18号館コラボレーションルーム1にて、第2回中東イスラーム世界セミナー「サウジアラビアと『アラブの春』:レンティア国家と民主化問題」が開催されました。

 司会者による本セミナーの概要と目的の説明に続いて、今回の講師である福田安志ジェトロ・アジア経済研究所研究員が、「GCC諸国での抗議運動の概要」「アラブの春が波及する構造」「サウジにおける大規模抗議行動の可能性」「サウジの民主化問題」「レンティア国家のほころびと民主化」「今後の展望」の順に講演を行いました。

 はじめに福田講師は、中東諸国及び湾岸協力会議(GCC)を構成する6か国を紹介するとともに、2010年12月にチュニジアで起きた抗議行動に端を発する、中東地域における抗議活動の展開を、地域、国ごとに詳しく紹介しました。そしてGCC諸国での抗議活動の背景として、シーア派住民の不満、民主化問題や人事の停滞などの政治への不満、若年層の失業などの経済・社会問題への不満、ならびに地方と都市部の格差の問題を指摘しました。さらに抗議活動がアラブ世界に広まった理由として、それらの問題がアラブ世界に共通して存在していること、また衛星放送とインターネットの普及をあげました。

 福田講師は、サウジアラビアにおける抗議活動にも上述の問題が指摘できるとし、シーア派住民の動向を中心とした抗議活動の展開と国王・政府側の対策を紹介しました。そしてソーシャルネットワークサービス(SNS)上での呼びかけと、アラブ諸国の共通土壌の存在により、同国でも大規模な抗議行動の可能性があったと結論付けました。

 福田講師は、サウジアラビアの政体を論じるために不可欠な、「レンティア国家」について、その仕組みを説明するとともに、サウジアラビアの政治構造は、イスラームが王政に正統性を付与し、また国民を王政支持に動員するなど、その国家統合に大きな役割を果たしていることのゆえに、「イスラーム・レンティア国家」と呼ばれうるものであると論じました。そしてサウジアラビアは石油収を背景に給与引き上げや雇用対策、住宅対策をすすめ、抗議活動の収束という安定を手に入れた一方で、政治改革は一切行われなかったこと、その背景には保守派や既得権益者の反対があったことを明らかにしました。

 そして今後の展望として、福田講師は、サウジアラビアの石油収入はレンティア国家を存続させるためには十分でないこと、民主化問題が解決されていないこと、スンナ派とシーア派の問題が手つかずであること、高齢化や後継者問題など政府指導層が抱える問題、ならびに脱石油政策の推進があまり進んでいないことに言及し、政治上のリスクと石油の富のバランスが崩れたときに、大きな国内変動が起きる可能性があるとしました。

 福田講師は、複雑なサウジアラビアの統治構造やレンティア国家の仕組みを、図を用いて分かりやすく説明しました。会場には様々な分野で活躍する研究者、学生、また一般企業、大使館関係者、官庁関係者が40名ほど出席し、質疑応答の時間やセミナー後には、女性問題を例とするイスラームと民主化の問題、なぜ2011年という時期に一連の抗議活動が広まったのか、またサウジアラビアにおける指導者層の世代交代についてなど、活発なやり取りがおこなわれました。