近年最も発達し、注目が集まっている学問分野の一つに脳科学があります。
先端生命科学専攻の久恒辰博先生は脳の海馬と呼ばれる場所の研究をされており、人の記憶が発生するメカニズムの研究をしていらっしゃいます
研究内容についてお聞かせください。
私は脳の研究を行っています。体の外からの情報に対して、脳がどのような応答を示すかを調べるのです。その中でも、脳の中を見る技術を用いて記憶や認知症にかかわる研究を行っています。
どのように脳の中を見るのでしょうか。
|
みなさんは光学顕微鏡をご存知ですか。通常の可視光で見る光学顕微鏡と違い、私が開発を行っているのはMRI(Magnetic Resonance
Imaging)と呼ばれるもので、物質に強力な磁場をあてることで発生される電波を検出する顕微鏡なのです。これにより、今までは見られなかった脳のリアルタイムの情報が見られるようになります。
|
|
 |
| |
MRIにより可視化された脳の血管
|
脳の中の可視化することでどのようなことがわかるのでしょうか。
アルツハイマー病などの認知症の原因解明や、脳腫瘍、脳梗塞の原因にもなる血栓の早期発見に役立てることができます。
|
例えばアルツハイマー病は、脳の中で記憶に関わる海馬の機能に障害が起きることで生じます。正常な体では、この海馬の中の歯状回（しじょうかい）にあるニューロンから発生した電気シグナルが、脳の他の部位へと伝達されることにより記憶されます。そのため歯状回は記憶が生まれる場所とされています。
|
|
 |
| |
海馬の MRI 画像。正常な海馬では、歯状回（図中 Optic Stimulation の位置）から発せられたシグナルが海馬の他の部位に伝達され記憶が生まれるが、歯状回に放射線をあてるとシグナル伝達がおきずに、記憶障害がおこる
|
現在ではMRIによりニューロン間のシグナル伝達を可視化することができます。脳の中でシグナルを放出している場所では血流が増加することから、その血流変化をMRIによって検出するのです。
私は、シグナルが生じる歯状回に様々な分子を投与することで、アルツハイマー病が生じる原因を研究してきました。例えば、薬や放射線をラットの歯状回の一部の細胞に作用すると、このシグナル伝達が上手く行われずアルツハイマー病と似た記憶障害を引き起こすことがわかったのです。
どのようにマウスに記憶障害があるかを調べるのでしょうか。
|
まず、マウスを専用の箱にいれ、電気ショックを与えます。そして、その次の日に再びそのマウスを同じ箱に入れるのです。
そうすると正常なマウスは「この箱は危険だ」と覚えているので、箱の中をあまり動かなくなるのですが、アルツハイマー病のマウスはその記憶を忘れているために平気で箱の中を動き回るのです。こうして動いた量を調べることで記憶に障害があるか判別出来ます。
|
|
 |
| |
ラットを用いた認知症の診断試験。箱の床から電気ショックが発せられるため、健康なラットは再び同じ箱に入れると警戒してあまり動かなくなる
|
脳の内部を見ることで、いろんなことがわかるのですね。
そうですね。しかし、現在のMRIの性能ではセンチメートルレベル以下の情報は見られず、得られる情報は限られています。脳を取り出すことのできる動物と違い、人の研究のためには外から脳の中が見られる、より高性能なMRIの開発が必要なのです。
高性能なMRIを用いることで、認知症をコンピュータにより診断することも将来的に可能だと考えています。
最後に学生に向けたメッセージをお願いします。
研究でも何であっても、新しい分野にどんどん挑戦して、息の長いことをやって欲しいです誰もやっていないことは、最初はチャレンジですが、得られるものもたくさんあります。自分が「いけるぞ」と思うことに果敢にチャレンジしてください。
（インタビュアー：須原 宜史）
カテゴリ：[バイオ・メディカル]
学科：[新領域創成科学研究科]
久恒研究室のHPへ
新領域特集に戻る |
