皆さんは、未来のロケットと言われてどのようなモノを想像するでしょうか?
今回は、新領域創成科学研究科先端エネルギー工学専攻で将来型宇宙推進システム・宇宙エネルギーシステムを研究なさっている小紫公也先生にお話を伺ってきました。
先生は何を研究なさっているのですか?
私は昔から宇宙推進の研究に興味を持ち、人工衛星をイオンエンジン(*1)等で動かす電気推進システムを研究してきました。その中で培われたプラズマを生成する技術を活かし、今度は電気の力で地上からのロケット打ち上げをやってみようと思い、次のチャレンジとして電磁ビームロケットを研究しています。
何故電気の力でロケットを飛ばそうと思ったのですか?
従来の燃料ロケットは大量の燃料を積み込むため、打ち上げたい貨物の100倍の質量を必要としてきました。大量の貨物を宇宙に打ち上げるためには、その分巨大なロケットが必要なわけです。
例えば、将来予想される大規模宇宙開発として宇宙空間に太陽光発電パネルを打ち上げ、その発電力をマイクロ波等のエネルギー波に乗せて地上に送る太陽発電衛星が挙げられます。しかし、その建設に必要な資材は2万トンと言われています。
つまり、実現のためには200万トン分のロケットを打ち上げる必要があり、コスト的に非現実的です。これまでの燃料ロケットの限界にぶつかった時、視点を変えて研究しようと思ったわけです。
電磁ビームロケットの原理について説明をお願いします。
ロケットに対し、地上に設置した電磁ビーム発信機からレーザやマイクロ波といった電磁波をロケットに照射することでエネルギー供給し、ロケットを駆動するシステムです。ロケット内部の空気に電磁波を照射することにより、急激に加熱して圧力差を生み、空気を噴出することで推進力を得ます。
極端にいえばロケットはただの筒状の入れ物でいいということですか?
極論を言えばそうですね。ほとんど燃料を積まずに、半分以上貨物の重さだけで打ち上げるロケットを目指しています。軽量で安価に使い捨てることのできるロケットを作ることが可能です。
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電磁ビ-ムロケットシステムのイメ-ジ図 地上の発射基地からビームを照射されロケットが進む。もちろん地上基地は一度作ってしまえば何度も使える。
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前述の太陽光発電衛星の建設が4万トン分のロケットの打ち上げで済むように、地上からの打ち上げコストを格段に下げることが出来れば、その先の宇宙ホテルやスペースコロニーといった大型の宇宙開発の実現性も高まると思います。
現在どのぐらいの重さのモノを浮かすことができるのですか?
計算上、1 MW(*2)の照射器で10 kgの物体をあげることができる。つまり、1000 本の照射器を用いれば、一度に10 トンぐらいまでは上がると思います。現在は模型サイズの実験ですが、上昇可能距離はビームのサイズで決まるので、スケールをあわせてやれば再現できます。発射から2~3分程で、宇宙に辿り着くために必要な軌道速度に到達することができるでしょう。
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マイクロ波を照射し、発生したプラズマにより空気を噴射し浮く電磁ビームロケット
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SFのようなすごい話ですね!
SFではないですよ。成功する確実な保証はないですけど、技術的に嘘や無理のない範囲内、現代のテクノロジーで実現できる範囲内でチャレンジングなテーマにむかっています。
私は昔、スペースシャトルが開発された時これで宇宙開発は軌道に乗るだろうと思いました。しかし、現実には燃料ロケットには限界があった。宇宙ロケットという夢にあふれたテーマに対し、その限界を突きつけられるだけではむなしいですよね。多様な発想、分野から様々な可能性を追求すべきではないかと私は思います。
ちなみに、この電磁ビームロケットの研究は、核融合の研究をなさっている先生から、燃料加熱用のハイパワーなマイクロ波発振器を使ってみないかといわれたことがきっかけなんです。
他分野の先生からも刺激をうけているのですね
新領域創成科学研究科では学融合を目標としていて、様々な分野をオーバーラップすることで新しいものを作っていこうとしています。新しい分野へのチャレンジがしやすい雰囲気といったものがあるのかもしれませんね。
最後に読者にむけてメッセージをお願いします。
自分のやりたいことを研究できるのが一番楽しいと思います。誰にでもきっとやりたいことはある。それを自分に問うて大学での研究を楽しんでいってください。
* 1 )キセノン等のガスをイオン化させ、電位差をかけた空間で加速し噴出させることで推進力を生むエンジンのこと
* 2 )家庭用100W の電球 1 万個光らせることのできる電力
(インタビュアー逢澤 正憲)
カテゴリ:[デザイン・設計・計画] [エネルギー]
学科:[航空宇宙工学科] [大学院の専攻]
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