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〒277-8562千葉県柏市柏の葉5-1-5 新領域 生命棟601
東京大学 大学院新領域創成科学研究科 先端生命科学専攻

研究紹介

4. 物質生産:微細藻類を利用した大量培養系の確立

地球上の生物は、その40億年の進化のなかで、5回の「大絶滅」を経験したといわれています。恐竜が絶滅してから6,600万年、6度目の大絶滅の引き金は、人類の手によってすでに引かれてしまったのではないかと思われる徴候が相次いでいます1)。温暖化、大旱魃、森林火災、砂漠化、食糧難、そして環境ホルモン、人類だけでなく全ての生物が生存の危機に直面しています。こうした危機感のなかで、地球上に生物が存在することの意味を改めて問い直そうというのが、私たちの一風変わった研究分野の由来です。

しかし、ただ考えているだけでは何も変わらないかも知れません。研究を実際の物質生産に結びつける必要があるかも知れません。グリーンイノベーションは私たちの研究を変える契機になるかも知れません。

  1. ミジンコウキクサを原料にしたバイオエタノール生産
  2. 藻類バイオの市場規模:研究成果を市場に反映させたい
  3. 微細藻類による物質生産と屋外大量培養システム
  4. バイオ燃料増産株作出に関する新技術開発チーム
  5. 緑藻ヘマトコッカスの環境応答と物質生産
  6. 細胞を丸ごと一個3Dに・・・(プレスリリース)
  7. 重イオンビーム照射とクロレラ優良株の単離
  8. クロレラの未知なる可能性:オイル生産能と長鎖脂肪酸合成

参考文献

  1. Barnosky, et al.: Has the Earth’s sixth mass extinction already arrived? Nature 471, 51-57, 2011.
  2. CREST 研究領域:「藻類・水圏微生物の機能解明と制御によるバイオエネルギー創成のための基盤技術の創出」 
  3. 戦略的創造研究事業チーム型研究CREST/個人研究さきがけ
  4. 河野重行チーム(東京大学大学院新領域創成科学研究科)
  5. 河野重行 (2011) バイオ燃料、東京大学広報誌「淡青」, 25号、49ページ
  6. ヘマトコッカスが東京大学のVisible Questions 2014に採用されました。

4-1. ミジンコウキクサを原料にしたバイオエタノール生産

化石燃料の枯渇および地球温暖化防止の観点から、石油の代替燃料としてバイオ燃料が注目を集めています。現在バイオ燃料の原料の主流はトウモロコシなどの穀物であり、食糧価格の高騰や耕地転用などが社会問題となりました。そこで、食糧と競合しない新たなバイオ燃料の原料が求められています。

ミジンコウキクサ Wolffia globosaは、アフリカ・アジア・オーストラリアに広く分布するウキクサ科ミジンコウキクサ属の種で、世界最小の種子植物です。根がなく葉と茎が一体化した楕円形の葉状体のみで生活します。デンプン含量が高く、新たなデンプン資源として注目されています。ミジンコウキクサは、花を咲かせることは稀で、通常は栄養生殖によって増殖します。冬季にはデンプン含量を増やし、水面から水底へ沈下して越冬することが知られています。

ミジンコウキクサのデンプンをバイオエタノール原料にするような研究は前例がありません。そこで、ミジンコウキクサの栄養生殖過程とデンプン蓄積のメカニズムを光顕や電顕を用いて探ろうとしています。また、ミジンコウキクサに含まれるデンプンと糖を化学分析してバイオエタノール生産の可能性を検討しています。

4-2. 藻類バイオの市場規模:研究成果を市場に反映させたい

藻類バイオの市場規模をインターネットで調べて表にしました。インターネットで手に入るだけの資料なので算定基準や信頼性に少々不安はありますが、大方の市場動向を知るには役立つでしょう。http://www.u-tokyo.ac.jp/ja/utokyo-research/editors-choice/biofuel/

バイオ燃料が突出しているのが目立ちますが、これは2015-2020年の世界予測で期待が相当に含まれている価です。ただ、近年、原油価格の高騰、地球温暖化問題、穀類のバイオエタノールへの転用などを背景に、海藻や微細藻類を利用したバイオ燃料への研究投資が官民問わず世界中で実施されており、欧州で開発中の超音速旅客機Zehstの例が示すように大きな期待があるのも間違いないところです。

バイオ燃料研究は、様々な問題をはらみつつも成功した第一世代のバイオエタノールから、カメリナ、ジャトロファ、藻類を利用した第二世代のバイオ燃料の実用化が急ピッチで進められてます。藻類は、植物に比べて単位面積当たりの生産性に優れ、農業に適さない土地でも栽培可能で食料問題と競合しないので、バイオ燃料の有望な候補の一つとなっています。藻類の魅力はその多様な遺伝資源のなかで最も環境に適した高生産の種を選べることにあります。

私たちの「バイオ燃料増産株作出に関する新技術開発」チームは優れた能力を有するクロレラとヘマトコッカスをモデルに選びました。これらの藻類はバイオ燃料以外にも相当大きな市場規模をもっているからです。バイオ燃料はもとよりこうした産業に適した微細藻類を倍数化と重イオンビーム照射によって作出する新技術の開発を考えています。

4-3. 微細藻類による物質生産と屋外大量培養システム

微細藻類の産業利用に関する研究は、戦後の食糧難時代の単細胞タンパク質(Single Cell Protein) に端を発し、オイルショックの際のバイオディーゼル利用(Aquatic Species Program; ASP, 1980-1996, アメリカ)、地球温暖化問題を背景とする生物学的CO2固定化プロジェクト(1990-1999,日本)などがありました。最近、こうした微細藻類の産業利用が、CO2削減とバイオ燃料創出を目的とした国家的取り組みとして世界中で再開されています。これは、微細藻類の生物機能・物質生産が、食料・エネルギー・環境という地球規模での問題を解決する有望な手段だと期待されていることを物語っています。

私たちは、クロレラによる物質生産の工業化を目指していますが、屋外の大量培養システムを用いたモデル実験では、チェコのチェコ科学アカデミー・微生物研究所 (Dr. Vilem Zachleder) との共同研究を考えています。微生物研究所は、屋外の大量培養設備を保有しており、窒素、リン、イオウなどの欠乏培地での物質生産誘導能が屋外でもチェックできるからです。クロレラは、屋外で大量培養が可能な数少ない微細藻類の一つで、屋内のバイオリアクターだけでは見込めないコストパフォーマンスを達成するのに有用です。

4-4. クロレラを用いた物質生産制御:デンプンとオイル

クロレラを食料やバイオマスとして使おうという発想は目新しいものではない。日本では健康食品などとして有名だし、チェコの微生物学研究所では飼料などとして出荷もしている。最近ではそのオイル生産能も注目されている。

図の左のグラフはクロレラのデンプン生産能を制御して高デンプン含量のクロレラを野外のバイオリアクターでも生産できる可能性を示しています。高デンプン合成を誘導するとデンプン生産量は培養開始時の約18倍にもなりますし、クロレラの%乾燥重量(DW)も培養開始時の3.5~12倍程度にまでなります。

図の右のA~Dはクロレラ細胞にデンプンが蓄積されていく様子を電顕観察したものです。最終的にはほとんどの細胞がデンプンだらけになっているのが分かります(D)。また、最近はクロレラにオイルを蓄積させる方法も分かってきており、Eはオイルを蓄積したクロレラをナイルレッドという蛍光色素で染色したものです。細胞内のオイルドロップが染色されて黄色蛍光を出しています。

こうしたことから、例えばクロレラを食料や飼料にする場合は、デンプンやオイルの含有量を任意に調整することも可能に為っております。夏はサッパリ、デンプン味、冬はヘビーに、オイル味などといったクロレラ飼料も可能かもしれません。

4-5. 緑藻ヘマトコッカスの環境応答と物質生産

ヘマトコッカス (Haematococcus pluvialis) は、本来は緑藻なのですが(左)、強光下で培養することでアスタキサンチンを蓄積して真っ赤になります(右)。12時間ごとの明暗で培養して緑のままにしておいたり、連即照射で培養して赤いままにしておいたりすることが簡単にできます。また、物質生産だけでなく光への環境応答にも興味がもたれます。

アスタキサンチンは鶏卵や鱒類の色揚げや抗酸化剤としての利用のほか、アスタキサンチンを溶かし込んだ油脂のバイオ燃料への利用も考えられます。私たちのグループではヘマトコッカスの全ゲノム解析も行なっており、ヘマトコッカスは環境応答と物質生産のモデル生物になると期待されています。東京大学のVisible Questions 2014に、ヘマトコッカスの問題が採用されました。ヘマトコッカスの紹介と3D/TEMが、JSTの『アートな科学』に掲載されました。

4-6. 細胞を丸ごと一個3Dに・・・(プレスリリース)

PLOS ONEに掲載された論文を東京大学・新領域からプレスリリースしてもらった結果(http://www.k.u-tokyo.ac.jp/info/entry/22_entry176/)、日刊2紙で紹介されたほか、多くのオンラインでも紹介されました。

<日刊紙>

  • 日刊工業新聞
    2013年1月15日(火)付け 
    13面 科学技術・大学 
    「藻類細胞内にオイル蓄積 東大、3Dで微細観察」
  • 日本経済新聞 
    2013年1月22日(火)付け 
    14面 科学技術 
    Science & Tech. フラッシュ
    「油をためる藻類 仕組みを解明」http://www.nikkei.com/article/DGXNASGG1400J_R20C13A1TJM000/

<Web オンライン記事>

  • 時事ドットコム(時事通信) 
    「藻類の精密な立体画像=ミクロの「CT」技術開発-産業利用加速に期待・東大」
  • 日刊工業新聞 Business Line 
    「東大、藻類のオイル蓄積を微細に観察する技術開発」
  • マイナビニュース 
    「東大、超薄連続切片技術と3D画像再構築技術で藻類の細胞内の変化を明らかに」
  • 日本経済新聞 Web刊 
    「東大、藻類が油をためる仕組みを解明」
    http://www.nikkei.com/article/DGXNASGG1400J_R20C13A1TJM000/

4-7. 重イオンビーム照射とクロレラ優良株の単離

クロレラ類はデンプンやオイルなどの有用物質を蓄積する微細藻類として注目されています。一般にクロレラ類は増殖能(グロース)が非常に良いのですが、増殖の良いときは有用物質をあまり蓄積しません。このためオイル蓄積を誘導するには、培地中の栄養塩を制限したりストレスを与えてやる必要があります。しかし一般に、栄養制限下ではグロースが非常に悪くなります。当研究室では、有用物質蓄積と増殖能の相反する性質をともにもつような藻類品種を作出することを目的として、微細藻類への「重イオンビーム育種」をおこなっています。

重イオンビームは、ガンマ線と異なり質量をもった原子核(炭素、ネオン、アルゴン、鉄など)を加速したもので(a)、理化学研究所(和光)は、RIビームファイクトリー(RIBF)で発生する重イオンビームによって、突然変異育種技術を開発しています。この技術を用いた品種改良は、園芸植物や農作物では多くの実績がありますが、藻類、特に微細藻類(クロレラなどの単細胞藻類)ではあまり実績がありません。

そこで私たちは、重イオンビームを藻類に当てることで、実際に微細藻類にどのようなフェノタイプが見られるかを調べました。まず、微細藻類に重イオンビームを照射し(a)、それを寒天平板に撒いて、96well のマイクロプレートにコロニーを拾います。その一つ一つがクローン株となります。この中には、野生型を含めて様々なミュータントが混ざっています。多数のクローン株を単離した後、粒子径、増殖速度、クロロフィル量などの各パラメーターを測定し、野生株と比べて各パラメータのスコアが高い株を候補株として最終的に7株選抜しました(b)(棒グラフの赤いバーは高スコアTOP3を示す)。次にその7株がどのような性質をもっているかを、ハイスループット・アッセイによるオイルやデンプンの蓄積動態分析(c;赤はオイル量、緑はデンプン量を示す)、GC-MSによる脂肪酸分析(d;色の違いは脂肪酸炭素数の違いを示す)、透過型電子顕微鏡(e)や蛍光顕微鏡観察(f;黄色の部分はナイルレッド染色によるオイル部分)によって明らかにしました。

顕微鏡観察やアッセイの結果、野生株と比べて、オイルの増産が優れている株やデンプンの増産が優れている株が見つかってきました。現在それらを優良候補株としてスラントや凍結保存によりストックしています(g)。また窒素やイオウなどの栄養成分を制限することで、有用物質の蓄積レスポンスが株によって異なることを見出しました。この性質は、有用物質生産の制御可能性を示唆しています。今回の研究は、重イオンビームで微細藻類のフェノタイプがどう変わるかに注目して研究を行いました。今後は、オイル増産性などに特化したり、選択圧を加えたスクリーニングを行うことで、より目的にかなった微細藻類品種の作出が期待できます。

4-8. クロレラの未知なる可能性:オイル生産能と長鎖脂肪酸合成

クロレラ類の6種8株では連続光条件下で、培養液あたりのバイオマス量、オイル量、デンプン量が最大となることが分かりました。炭素のフローはデンプンからオイルへとシフトし、特に5株で明瞭に示されました。この培養系では生産性は格段に向上し、以前の私たちの研究結果の約35倍に相当する1.04 g/L/Dayのバイオマス生産性を達成することができます。

生産したオイルの“質”についてはガスクロマトグラフィー(GC-MS)で解析しました。イオウ欠乏条件下で培養することで脂肪酸組成が変化することが分かります。興味深いことに、図で示すように、C. sorokinianaやP. kessleri 2152株では炭素数20以上の長鎖脂肪酸の顕著な増加が見られました。長鎖脂肪酸の中にはDHA(C22:6)やEPA(C22:5)などの健康食品に利用される成分も存在し、クロレラでこれらの脂肪酸の生産が可能になるかもしれません。

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