CREST
研究課題名
微細藻類の倍数化と重イオンビーム照射によるバイオ燃料増産株作出に関する新技術開発
研究課題概要
微細藻類を用いたバイオ燃料生産を実用化するためには、自然の微細藻類をそのまま使うのではなく、穀類や園芸作物と同じように大量生産が可能な株を育種する必要があります。これまで、微細藻類には育種という発想はなく、ゲノムもほとんど解読されていませんでした。本研究では、園芸作物の品種改良で実績のある重イオンビームを微細藻類に照射して、形態に関する定量的データをもとにそれを選抜育種する、微細藻類に特化した革新的で先端的な、全ゲノム情報を基盤とした育種法の確立を目指します。
研究代表者
河野重行(東京大・新領域・先端生命)
リンク
- 平成22年度(第2期) 新規採択研究代表者・研究者および研究課題の概要
- 藻類・水圏微生物の機能解明と制御によるバイオエネルギー創成のための基盤技術の創出
- 河野重行チーム(東京大学大学院新領域創成科学研究科)
- 細胞を丸ごと一個3Dに・・・(プレスリリース)
- Todai Research:バイオ燃料
- 高オイル産生クロレラの全ゲノム解読に成功 ― オイル産生機構の解明と応用研究の加速に期待―
- リンを高蓄積するクロレラ ―地上から失われつつあるリンの水中での回収に期待―
研究紹介
1.パラクロレラのゲノム解読に成功:藻類バイオのモデル生物として期待される
微細藻類クロレラの一種パラクロレラ(Parachlorella kessleri)はオイルなどの物質を蓄積する能力に優れています。当研究室は、パラクロレラのバイオマス増産を目指し、理化学研究所仁科加速器研究センター、チェコ科学アカデミー微生物学研究所と共同で、パラクロレラの重イオンビーム育種や屋外大量培養実験を行っており、2016年にパラクロレラの全ゲノム解読に成功しました(オープンアクセス論文:Ota et al. 2016)。得られたゲノム情報より全代謝マップを作成し(図1)、さらに硫黄飢餓ストレスに応答する遺伝子発現動態を解析したところ、イオウ代謝、トリアシルグリセロールの合成、オートファジー関連の遺伝子が活性化していることがわかりました。クロレラのオイル蓄積過程の細胞内構造変化を電顕3D技術で可視化したところ、オイルボディー(油滴)の体積はゼロから約52%まで増加することがわかり、この結果はオミックス解析の結果を裏付けています(図2)。詳細は新領域プレスリリースをご参照下さい。 今後は、ゲノム情報をもとに、重イオンビームの先端育種における欠失変異の研究やさまざまなストレス条件下でのトランスクリプトーム解析、さらにトレボウクシア藻の無性生殖への進化を明らかにしたいと考えています。
2.リンを高蓄積するクロレラ:硫黄欠乏下でリンを過剰に取り込むことを発見
近年、リン鉱石の枯渇が顕在化しており、実際に肥料などの価格が上昇しました。さらに再生可能資源と目されるバイオマス燃料も実際にリンがなければ生産できません。このように、リンは地球上の全ての生命にとって不可欠な元素であり、私たちの生活に無くてはならない重要な元素です。クロレラなどの微細藻類には、細胞内にリンを蓄積できる種がいることが知られていましたが、細胞内のどこに、また、どのように蓄積されるのか、その動態やメカニズムについてはよくわかっていませんでした。当研究室は、日立ハイテク、チェコ科学アカデミーの研究者らと共同で、パラクロレラが硫黄を除いて培養するストレス条件で、リンを過剰に取り込むことを発見しました(オープンアクセス論文:Ota et al. 2016)。藻体内で蓄積されたリンは、生物由来のリンとして利用でき、将来的にはバイオマス資源としての活用可能性が期待されます。上図A, Bはそれぞれ細胞内リンとポリリン酸の蓄積動態、Cはリンの蓄積場所と考えている高電子密度顆粒の場所を電子顕微鏡像に色をつけて分かりやすく表示しました。詳細は新領域プレスリリースをご参照下さい。