江澤雅彦 (Motohiko Ezawa)              所属: (東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻)
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研究概要  1.トポロジカル原子層物質:2.バレートロニクス: 3.ディラック電子系: 4.スカーミオン: 5.高次トポロジカル絶縁体: 6.量子コンピュータと量子機械学習: 7.新規量子ビット提案:
研 究 概 要

(II) バレートロニクス(valleytronics)

グラフェンの低エネルギー励起にはK点とK'点があり、バレー自由度と呼ばれています。これはスピンと同様にパウリ行列で表す事のできる自由度であり、擬スピンと呼ばれています。スピン自由度を応用する概念としてスピントロニクスがありますが、同様にバレー自由度を応用するバレートロニクスが考えられます。グラフェン以外にも一般的にハニカム系はバレー自由度を持ちます。また、最近、発見されたトポロジカル結晶絶縁体の表面や薄膜もバレー自由度を持ちます。

★ トポロジカル・キルヒホッフ則★

一般的にハニカム系はスピンとバレーの二つの自由度を持ちます、このため、系を特徴付けるトポロジカル指数はチャーン数、スピン・チャーン数、バレー・チャーン数、スピン・バレー・チャーン数の四つになります。これに応じてトポロジカル絶縁体は16種類定義できます。その境界には120種類のトポロジカル・エッジが定義されます。これらでY接合を作った際には、エッジ状態のトポロジカル指数の和が保存するというトポロジカル・キルヒホッフ則を示しました。これは将来、トポロジカル・エッジで回路を作るトポロジカル・エレクトロニクスの基礎になります。[PRB 88, 161406 (R) (2013)]

★ 対称性に保護されたトポロジカル荷電★

スピンやバレーなどユニタリーな演算子に付随するトポロジカル指数を一般的にグリーン関数を用いて定義しました。これはユニタリーな演算子の対称性が存在する限り量子化し、対称性がなくなると量子化せずに連続な値をとります。また、付随する伝導度と常に比例する事を示しました。この結果をスピン・チャーン数、バレー・チャーン数、スピン・バレー・チャーン数に応用しました。[PLA 378, 1180 (2014)]

★ シリセンにおけるバレートロニクスと光吸収における円二色性★

シリセンにはグラフェンと同様にK点とK'点があり、バレー自由度を持ちます。円偏光を照射すると片方のバレーのみを選択的に励起する事ができ、円二色性と呼ばる現象を示します。シリセンに円偏光した光を当てた時の光吸収がトポロジカル絶縁体とバンド絶縁体で違う事を示しました。また右偏光と左偏光ではそれぞれ違うバレーで吸収が起きる事を示しました。トポロジカル相転移を光吸収における円二色性によって観測出来る事を理論的に提案しました。[PRB 86, 161407(R) (2012)]

★ トポロジカル結晶絶縁体表面上のバレートロニクスと光学的楕円二色性 ★

トポロジカル結晶絶縁体の表面には数多くのディラック・コーンが存在し、バレー自由度と呼ばれています。このディラック・コーンは異方的であるために、楕円偏光を照射するとバレーを選択的に電子励起する事ができる事を示しました。[PRB 89, 195413 (2014)]