江澤雅彦 (Motohiko Ezawa)              所属: (東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻)
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研究概要  1.トポロジカル原子層物質:2.バレートロニクス: 3.ディラック電子系: 4.スカーミオン: 5.高次トポロジカル絶縁体: 6.量子コンピュータと量子機械学習: 7.新規量子ビット提案:
研 究 概 要

(III) グラフェンの物理

グラフェン(graphene)とは炭素原子1個の厚みしかないシート状のグラファイ ト(黒鉛)のことです。2004年に初めて合成された比較的新しい物質です。2010年のノーベル賞がグラフェンの実験家に授与されたのは記憶に新しいと思います。グラフェン上の電子の著しい性質は,これが質量ゼロのDirac方程式で記述されることです。グラフェンは純理論的に美しい構造を持つだけでなく,将来的にはシリコンに代わるデバイスの基本物質としての応用が期待されています。 特にグラフェンを切り出すことによりグラフェン・ナノリボンやグラフェン・ナノディスクなどの様々なグラフェン・ナノ構造を考えることが出来ます。

★ グラフェン・ナノリボン ★

グラフェンを一次元状に切り出した物質をグラフェン・ナノリボンと呼びます。グラフェン・ナノリボンはグラフェンで作った量子細線と考えることが出来ま す。グラフェン・ナノリボンはエッジの種類と幅で分類し指標付けを行いました。グラフェンのエッジの種類はジグザグ・アームチェア・カイラルなどがあ ります。これらのエッジの種類と幅の関数としてバンド構造とバンドギャップを系統的に調べました。 [PRB73,045432(2006)]
A highly cited paper by Thomson Reuters databases



★ グラフェン・ナノディスク ★

グラフェン・ナノディスクはグラフェンを0次元状に切り出した物質です。これはグラフェンで作った量子ドットと考えることもできます。ジグザグ三角ナノディスクには多数の縮退したゼロエネルギー状態があることを世界に先駆けて提唱しました。またグラフェン・ナノディスクのクーロン・ブロッ ケード、近藤効果、スピントロニクスへの応用も議論しました。 またゼロエネルギー状態の波動関数をディラック方程式を用いて厳密に導出しま した。 [PRB76,245415(2007); Physica E40,1421(2008); PRB77,155411(2008); EPJB67,543(2009); PRB79,241407(R)(2009); NJP11,095005(2009); PRB81,201402(R)(2010)]

★ グラフェンの量子ホール効果と超対称性 ★

グラフェンの低エネルギー励起はディラック方程式で記述されます。私はディラック方程式がパウリ方程式を経由して超対称性を持つことに着目して量子ホール効果のランダウレベルを導出しました。また二層・三層のグラフェンについてもランダウレベルを超対称量子力学に基づいて導出しました。 [JPSJ76,094701(2007);Phys.Let.A 372,924(2008);Physica E 40, 269 (2007)]

(III) フォスフォレンの物理

2014年になり、黒リン(black phosphorus)の一層物質であるフォスフォレン(phosphorene)が剥離法によって実験的に作成され、着目されています。既にトランジスターとして動作する事も確認されています。可視光領域のバンドギャップを持つ事から発光ダイオードや太陽電池の候補物質としても有力です。構造は下記に示す様にpuckered構造をとります。
この物質の面白い所はkx方向はディラック的な分散でky方向はシュレディンガー的な分散であり、極めて異方性が強い事です。この分散をハニカム格子で異方性が極めて強い極限でK点とK'点が対消滅してできたという解釈を提案しました。この対消滅により、グラフェンに部分的に存在する平坦バンドが全領域に渡る平坦バンドに変化する事を示しました。また、フォスフォレン・ナノリボンに横電場をかけることでこの平坦バンドを上下に制御出来、トランジスターとして動作する事を提案しました。[NJP 16 115004 (2014)]