OB/OGのメッセージ

写真:前ホンダエアクラフトカンパニー 社長兼CEO 藤野 道格さん

航空宇宙はいつも時代の最先端

前ホンダエアクラフトカンパニー 社長兼CEO 藤野 道格
  • 1984年 卒業
  • 2014年 博士(工学)

私は東京大学工学部航空学科(現在の航空宇宙工学科の前身)を1984年に卒業しました。卒業当時は日本が世界でイニシチアティブをとってビジネスができるのは自動車産業しかないと思い本田技研に入社しましたが、入社後3年目に航空機の研究が開始されそのメンバーに加わることとなりました。その後、航空機の開発に38年間携わることになりました。最初の10年間は主に航空技術の基礎研究、次の10年は小型ビジネスジェット機「ホンダジェット」の開発、そしてその後は米国にホンダの航空機事業会社を設立してホンダジェットの事業化、すなわち航空機の開発、認定、量産、販売などを手がけました。最初は40人ほどだったプロジェクトのメンバーが10年後には1400人を超え、ホンダジェットは先進的な小型ビジネスジェット機としてベストセラーになりました。私は米国においてホンダの航空機事業をゼロから立ち上げていく過程で多くの仲間と出会い、一つの目標に向かって世界中から集まった航空宇宙技術者と仕事をしてきました。そこで感じたことを少し書いてみたいと思います。

現代の航空機技術は非常に高度で複雑化しており、技術開発は多くの専門分野に細分化される傾向があります。航空宇宙産業の中心である米国ではエンジニア達の専門性が非常に深くなる一方で、多分野の技術を理解し航空機やロケットなどの最終プロダクトの開発全体にリーダーシップを発揮できるようなエンジニアはむしろ少なくなっています。多分野の技術を統合してイノベーションを実現していくようなリーダーを育てていくことが今後より重要になっていくと思われます。大学で航空宇宙工学を専攻することは、そのようなリーダーシップをとる仕事の基礎を作りあげる第一歩なのです。

ホンダジェットの開発では米国の大学だけでなく東京大学で航空宇宙工学を学んできたエンジニアにも出会い、ともに仕事をしてきました。彼らの特徴は、それぞれの専門性とともに全体像を見渡して統合化できるような素養を備えていることです。彼らは航空宇宙工学の基礎や知識を身につけており欧米のトップの航空宇宙技術者と十分に伍していける力を有しています。日本人も将来の航空宇宙事業のリーダーとして世界で活躍をしていくことが出来ると思っています。

米国ではボーイングやロッキード、テキストロンといった大企業だけでなく、Advanced Air Mobility(AAM)のスタートアップやスペースXなどのベンチャーが数多くあり、航空宇宙を専攻する学生にとって多くの挑戦の機会があります。電動飛行機、水素飛行機、低抵抗化を目指したTransonic Trussed Braced Wing、eVTOL、月面探索、有人宇宙開発プロジェクトなど航空宇宙分野の将来はますます夢に満ち溢れています。航空宇宙はいつも時代の最先端で、我々の夢の結晶でもあるのです。

ホンダジェットを顧客に納入するときの喜びは何ごとにも変え難いものです。飛行機設計者として誇りに思う瞬間でもあります。皆さんも東京大学で航空宇宙工学を学び、ぜひ世界に羽ばたいてほしいと思っています。

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