Roger Beachy氏はTMVのコートタンパク質遺伝子(cDNA断片)を発現するように植物に導入しておくと、その植物がTMV感染に対して抵抗性となること(CP-MRと略す)を見いだした、今も活躍する植物バイオテクノロジーの先駆けを走っている研究者です。ウイルス抵抗性を人工的に創出したということで、遺伝子組換え植物・作物についての意見を積極的に公の場で述べています。研究者でありながら、人をリードする姿、のちにはWashington DCにもいってUSDAの研究に関する長もこなす人生をおくっている姿をみつつ、いつも研究者とは何か、何ができるのかを考えさせてくれる人物です。さて、この抵抗性はどうして植物に誘導されるのか。彼は植物の中でコートタンパク質が発現している場合、後から感染で入ってきたウイルスのコートがはがれるのが阻害され、感染のサイクルがまわるのが抑止されるというモデルを出しています。RNAサイレンシング現象がさまざまな生物を舞台に1999年に見いだされます。CP-MRもRNAサイレンシングで説明できる部分があるのでしょう。
ウイルスの感染を一度味わっていると、そのゲノム配列情報をもった短いRNAが体内に形成され、その配列と相補的なRNA(たとえばウイルスRNA)が侵入してもその発現抑制がかかるというものでした。驚きでしたが、われわれも見たくなり、RNAサイレンシングによるウイルスの感染抑制現象の解析を始めました。そのうちに栗原志夫くんが動物で見いだされたmiRNAの系に注目し、植物で生成されるmiRNAが成熟する際に関わるのがDCL1であることを世界に先駆けて照明しました。今思えばその少し前に、最初はかずさDNA研究所で提供されたもの、そのうちにSalk Research Instituteで用意されシロイヌナズナのT-DNAタグラインの整備が行われ、公開ゲノム情報と合わせて、こうした変異体が公開されたことはありがたかった。そのおかげでRNAサイレンシングに関与している可能性が高いものを先んじて用意できたのが、非常に大きかった。
TMVとの出会いに始まったRNAとの関わりですが、宿主植物もRNAに対してRNAで対抗している事実に私はある種の衝撃をうけました。ここに植物を舞台にRNAを介した遺伝子発現制御を考えることで、独自の植物に対する見方ができるという信念をもつようになったのかもしれません。