私の定年退職の時期に合わせて、学生の修了、就職がうまくいった。私自身は科学研究費補助金がいただけたこともあり、特任研究員として4月からも元の研究室スペースに来ることができている。ただ昼間もラボに一人というのはいかにも寂しい。議論する相手もいないと、研究への活力は落ちるものだ。

一方で、これまでの研究人生、教育活動で行ってきた記録などを整理をしている。長い年月を経たのでさまざまなものがある。30年以上経ったもの、40年近く前に読んだ論文コピーなどが出てくると、当時を思い起こす。さまざまに研究過程で考えたことを思い出す。

その記憶を呼び起こすと、幸せな研究人生を送ってきたと思う。と同時に実際過去に行ったアクションに後悔を感じる部分もある。実験の内容についてというよりは、プレゼンの仕方や、その前後での海外の関連分野研究者のコミュニティーとの接点の持ち方についてである。いかに海外研究者との活発な交流をする術を知っていれば、研究人生もまた一味も二味も変わっていったであろう。

日本の中でのみやっていると見えない、感じない部分である。。

新型コロナ感染症の影響で、日本の研究者、大学院生による海外とのin-person交流が減ってしまったのが、口惜しい。日本の外では、on lineツールを用いてセミナーを遠距離同士でシェアしていた。こうした活発な交流をしていたのをみるにつけ、残念に思うところである。

定年退職になって、一番変わったと感じているのは、何月何日何時から何とかの会議というスケジュールがほとんどなくなったこと。そういえば、3月までは見えない何らかのものにせかされるように、次の予定は何とかを、無意識のうちに考えながら行動していた。その制約がなくなったことは気持ちが楽になった。また会合などをリードする必要もほとんどなくなったので、参加予定者との日程調整をする手間、時間も要らなくなった。なくなってみるといかにその手間が大きかったかが理解できる。

その分、アカデミックに使える時間としたいものである。

3月29日金曜日に退職をしたばかりですが、翌週は4月。そして2024年度。嬉しいことに、生物部会としての非常勤講師を務めることになっていました。ただその最初の授業が翌週の4月5日の金曜日1限。新入生が入学して最初の教室授業に当たってしまいました。学生の皆さんも大変だったでしょうが、私も非常に不思議な感覚を味わいました。一週間前にこの大学から退いたのに、また教壇に立っている不思議さを感じざるをえませんでした。いえいえ文句を言っているわけではありません。でも学生の方々のフレッシュな顔つき、純粋な目を見て嬉しく感じる貴重な時間でした。

退職を迎えて

2024年3月9日に最終講義を終えることができ、続いて祝宴を設けていただきました。ありがとうございました。そして無事に3月29日最後の勤務日に任期満了の退職の記を研究課長からいただきました。

多くのお花、品、記念品に囲まれて幸せな時を迎えることができました。駒場に27年間、最初に教員として助手（当時）になってから38年間、多くの教員、同級生、卒業生、事務補佐員の方々にサポートいただきました。多くの方々に感謝申し上げます。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　渡邊　雄一郎