学生の皆さんへ
平成29年4月より微生物学研究室を担当することになった吉田稔です。
私は別府輝彦先生〔現名誉教授〕のご指導の下、旧農芸化学科を1981年に卒業、1986年に大学院農学系研究科農芸化学専攻にて学位を取得しました。醗酵学研究室にて助手、助教授を務め、2002年より理化学研究所の主任研究員となり、このたび関連の深い微生物学研究室の教授として再び東京大学での教育・研究活動に参加出来ることになりました。大変嬉しく思うとともに大きな責任を感じているところです。
これまで私は一貫して微生物が生産する特異的で強力な生理活性物質の作用機構を分子レベルで解明する研究に取り組んできました。大学院博士課程では、世界初の特異的ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤トリコスタチンAの作用機構研究に取り組みましたが、当時の微生物学研究室の教授でいらっしゃった田村學造先生から多くの貴重なご助言をいただいたことを今でも感慨深く思い出します。ツニカマイシンの作用機構研究で世界を先導されていた田村先生のご指導が、結果として私の研究における予想もしない標的分子の同定に至ったことを思うと、微生物学研究室の研究の系譜の一端を私が引き継いできたのかもしれないと思っています。
微生物ゲノムやメタゲノム研究が大きく発展した今、微生物学は新しい時代に入りました。多細胞微生物である糸状菌の知られざる生理や、微生物の種内あるいは種間のコミュニケーション、共生現象、環境適応、エピジェネティクスなど新たな研究課題が山積しています。私は微生物学研究室を担当させていただくという大きなチャンスをいただきましたので、専門分野、年齢、出身などあらゆる垣根を越えて協力することにより、研究室の学生・教職員の皆さんがそれぞれに新しい課題に果敢に挑戦し、自ら誇れるような大きな成果を挙げられる研究室を造っていきたいと考えています。研究テーマはこれまでの麹菌を中心とした糸状菌の分子生物学を引き続き推進するとともに、微生物由来生理活性物質のケミカルバイオロジー、酵母や動物細胞の代謝制御、細胞間コミュニケーションなどの新たなテーマにも取り組みます。「随処に主と作れば、立処皆な真なり」の教えの通り、研究の主人公は常に実際に研究する皆さんなのです。これからの微生物学には大きな可能性が秘められています。是非、皆さんチャレンジしましょう。