・研究トピックス
ネコヘパドナウイルス
人のウイルスでB型肝炎ウイルスがあります。ヘパドナウイルスの仲間で過去の予防接種などで拡がり肝機能障害や腫瘍の要因となることが知られています。その近縁ウイルスとしてネコヘパドナウイルスが2016年オーストラリアで発見されています。しかしこれまで国内ではこのウイルス感染は報告されていませんでした。当研究室では原因不明の発熱を呈していたネコから次世代シーケンスを用いた網羅的解析により、このヘパドナウイルスを検出しました。同時に動物病院に来院したネコの血液をPCR法で調査したところ他の1例でもこのウイルス遺伝子を検出しています。国内(とくに首都圏)の感染率は諸外国と比較してかなり低そうですが、症例の臨床所見から推測するとこのウイルスがネコに対して病原性がありそうです。今後の診療では検査していく必要があるかもしれません。国内であたらしく検出されたウイルスは、これまで報告されているネコヘパドナウイルスとの塩基レベルでの相同性が90%程度であり、PCR検査などで検出系を組む場合にはこの配列を考慮する必要がありそうです。当研究室のメンバーがJCVIMで研究発表を行っています。獣医療関係者の方はそちらをご覧ください。 2022.2.28 桃井
動物の新型コロナウイルス
新型コロナウイルスの流行が続いています。犬や猫も新型コロナウイルスに感染することが知られています。ただ実際にこのウイルスがどれくらい動物に感染しているのか、どれくらい病気を引き起こすのか、動物から人間へ感染するのか、についてはよくわかっていませんでした。まずペットの犬や猫の感染ですが、国内ではかなり少ないようです。昨年実施した抗体検査(首都圏のペットを対象)では犬、猫ともに1%未満です。2021年12月〜1月に猫を対象に抗体検査を行いましが90頭調べ陽性の猫はいませんでした。関係する研究施設、検査会社とも連絡をとり、統計をまとめていますが、これまでに国内でPCR検査陽性になった感染猫は7例、犬は8例です(2022年1月まで)。基本的には、飼い主さんが感染し、ペットに感染させている例ばかりです。このような調査や海外のデータをみると感染した家庭で、人からペットへ感染する確率はそれほど高くないようです(しかし感染は成立します)。ペット、特に猫は、感染後、発症することがあります。ただ発症する割合はあまり高くはありません。東京大学に来院した呼吸器症状のある猫を対象にPCR検査を継続して行っていますが、まだ陽性例はおりません。とはいうものの猫が感染すること、人への感染も成立し得ることを考えておく必要があります。人の感染者がいる家庭においては、動物を感染させないように、またハイリスクな方は動物の世話をしない方が無難でしょう。現時点では、新型コロナな動物の健康にとって直接的な脅威とはなっていません。変異株等でどうなるかはわかりませんので、今後も注意していく必要があると考えています。 2022.2.28 桃井
未知の感染症の遺伝子診断
次世代シーケンスを使った未知の感染症の遺伝子診断を行っています。感染症の診断は通常、診断の前に特定の感染症、例えばパルボウイルス感染を想定しておく必要があります。そのうえでPCR検査や血清学的検査を行い判定します。次世代シーケンスによる診断では、事前に感染症を推測する必要がありません。実際、発熱などがみられた動物の少量の血漿を材料に次世代シークエンスによるウイルスの検出を行いました。その結果、臨床現場で見落とされていたパルボウイルス感染やネコ免疫不全ウイルス感染があることが判明しました。さらに獣医療で問題となっている重症熱性血小板減少症(SFTS)の感染も検出されています。さらこれまで病原性が知られていなかったウイルス検出にも成功しており現在解析を進めています。臨床応用にはコストと時間の問題がありますが、技術的な問題点はクリアーできています。新型コロナに代表される新しいウイルスの流行はいつ発生するかわかりません。この技術は不明な感染症、新興感染症を見つけ出す強力なツールになると考えています。 2021.4.2 桃井