講演要旨
戦後の経済成長社会が安定期に入り,高齢化と人口減少が現実の時代となったこの国において,建築やまちを社会制度の視点から考察したい。
建築の基本理念としての安全・機能・造形の追求は2000年前のローマ時代から変わらないものの,20世紀後半になって急激に一般化した高層建築や高速大量交通・物流,情報処理などのシステムの,自然に対する脆弱性に対して,安全性を確保するための工学や社会制度が,どの程度有効に働いていると言えるのであろうか。
21世紀に入ってからも,朱鷺メッセ歩道橋崩落事故,中越地震,構造計算書偽装事件そして東日本大震災と構造安全性を考えさせられることが頻発している。専門家の対応や社会制度が,効率良くものを作り経済規模を拡大すると言う中で見落としていた危険性の増大をもたらしていたとすると,新しい構造安全性の確保のしくみを考えて行く必要がある。
自然災害に対する構造安全の問題は,稀な事象の平均発生間隔が100年を超えるオーダーであることから日常体験による確認が困難である。また自然現象そのものの解明にもまだまだ限界があり,加えて構造物の各部の性能と全体挙動を把握することも容易でない。法規制と法適合による確認の限界と技術の把握と時間の有限性の中で,経済効率性を優先すると技術者の判断が軽視されることになる。
構造物の直接・間接の関係者としての市民が,専門家による評価と判断に対して十分納得し,安全性決定に関与する集団合議を基本とする社会制度が求められている。
発表資料
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