講演3

鬼頭秀一教授(東京大学) 「構造安全性における「人間的側面」をどう捉えるべきか」

講演要旨

 工学における「設計」が限定合理性に基づくものであることは,21世紀,特に3.11を経験した私たちにとって大変意義深い。不確実性を前提に私たちはさまざまな意思決定をせねばならない時代に突入したのである。不確実性を原理的に排除できるという前提の下に科学の進歩に解決を委ねたのが20世紀の科学技術のあり方であるとすると,21世紀の科学技術は不確実性を前提として,それをあえて取り込んだ形でよりよい形を求めるものであるということができる。そうすると,安全性を追求する場合,科学の進歩に委ねる形で100%の安全性を得られるはずだと考えるあり方(それはゼロリスクがありうるということとも通じている)は過去のものとなったわけで,不確実性を前提とした安全性のあり方が問われていることになる。
 「ヒューマンエラー」に代表される「人間的側面」は,可能な限り排除して,システムとしての構造安全性を追求しようとするやり方は従来からあるひとつの考え方であるが,しかし,このことは人間の安全性に対するスキルを低下させ,結果的に安全性を確保できない事態も招来することもしばしばあった。それとは逆に,「人間的側面」も込みにした上で安全性を考えていくあり方がこれから求められていくのではないだろうか。それは安全性に対する人間のスキルを高めることをもシステム的に折り込んだ形の広義の構造安全性である。構造安全性における人間とのインターフェースの問題は来るべき持続可能な社会において重要な課題であり,新しいタイプの工学のあり方が求められている。

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