拝啓 時下ますますご清祥のこととお慶び申し上げます。
さて,神田順先生におかれましては,本年3月31日をもって東京大学を定年退職されました。
先生は,東京大学を卒業後,同大学院修士課程を修了,株式会社竹中工務店に入社され,構造設計業務に就かれました。昭和51年3月から3年間にわたり英国エディンバラ大学に留学され,超高層建築の強風時応答をテーマとした研究で博士号を取得,帰国後1年間研究成果を生かした業務に就かれた後,東京大学工学部建築学科に助教授として赴任されました。
その後,平成8年9月に教授に昇任,さらに新しいキャンパス構想の展開においては建築学科の意見とりまとめに中心的役割を果たされ,平成11年4月から新領域創成科学研究科環境学専攻教授,初代の社会文化環境学大講座主任として社会文化環境学という新しい分野の創成に尽力されました。
東京大学ご在職の期間は32年に及び,風工学における研究実績を地震工学・信頼性工学の分野に広げ,一貫して構造工学分野で精力的に研究成果を発表されるとともに,経済的視点・法律的視点をとりこんだ学際的研究にも取り組んでこられました。平成3年には,日本建築学会より「建築物設計のための確率論的荷重モデルに関する研究」で霞が関ビル記念賞を,さらに平成8年には「最適信頼性指標の建築構造工学における実用化に関する研究」で日本建築学会賞(論文)を受賞されました。
学会活動においては,荷重運営委員会で主査を務められるとともに,建築物荷重指針・同解説のとりまとめに主導的役割を果たし,特に平成5年版において荷重の基本値の概念を導入し確率的に統一的なモデルの形で枠組みを整備するという大きな功績を残されました。限界状態設計法指針の刊行(平成14年)にあたっては,小委員会主査として,各種構造の限界状態設計法を実務に利用可能な形に取りまとめられました。また,日本風工学会においては,事務局長,理事を歴任,日本建築学会においては,監事,総務理事,副会長を歴任され,学会の発展にも貢献されています。さらに,多くの国際会議の組織運営にも尽力されており,特に「構造信頼性およびその応用に関するアジア太平洋会議(APSSRA)」を平成6年に主催され,この会議はその後4年に1度の開催で現在も発展しています。また,平成19年には,東京大学柏キャンパスとしては初の250人規模の国際会議となる「第10回土木建築構造物における確率統計の応用に関する国際会議(ICASP10)」を開催し,その議長を務められました。
社会的貢献の面では,日本建築センターにおいて膜構造評定委員会委員,免震構造評定委員会委員,高層建築物評定委員会委員を務められ,また平成15年からはハウスプラス住宅保証の高層評定委員会委員長を務められています。原子力発電所建屋の耐震安全性に関する委員会においても,国の審査行政,事業者協会の研究活動などを中心に,多くの委員会に参加されています。さらにISO/TC98「構造物の設計の基本」にあっては,長年国内委員を務められる一方,平成13年5月からはSC3の荷重外力作業部会の委員長を務めておられます。また,高層建築都市居住協会(CTBUH)においては,構造物の安全性に関するモノグラフ作成委員長を務められ,世界の著名な研究者を集めて編集,出版(平成17年)されました。また,平成15年8月には建築基本法制定準備会を設立,会長として,専門家や議員に呼び掛け我が国の建築関連法体系の見直しの議論を積み重ねられるとともに,全国で建築社会制度のあり方についての講演などを実施されています。
先生は,ご退職後も日本大学理工学部建築学科特任教授としてますますお元気でご活躍されております。今後とも引続き,私共後進をご指導下さることを切に願うものであります。
このたび,神田順先生の東京大学ご退職にあたり,これまでのご功績を讃え,ご指導に感謝の意を表したく,下記の通り記念事業を計画いたしました。つきましては,何卒この趣旨にご賛同賜り,ご協力ご参加下さいますようお願い申し上げます。
神田順教授退職記念事業 発起人一同
代表 東京大学新領域創成科学研究科社会文化環境学専攻 専攻長 出口 敦
実行委員会幹事 鬼頭 秀一,高田 毅士,大川 出,伊藤 杏里,岡田 康男,壇 一男