放射性廃棄物処分のこれから

[PDF]  2012年4月号 [第47号]原子力国際専攻特集 
カテゴリ:[エネルギー]  学科:[大学院の専攻]

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 放射性廃棄物処分学を専攻されている長﨑晋也教授にお話を伺いました。廃棄物処分学とは何をする学問なのか、安全評価をどう行っているか、今年の4月からカナダの大学に赴任して何をしたいかなどを伺いました。




放射性廃棄物処分学とはどのような学問ですか。


 
 そもそも、原子力に限らず廃棄物は産業や人間の生活において重要な問題です。

 工学の世界では、これまで実験や経験によって得られた知見をもとに試行錯誤して技術を発展させてきました。しかし、我々が廃棄物によって受ける影響は短いスパンでは測ることができません。放射性廃棄物の場合は、100万年程度の長いスパンで被ばくなどの影響を考慮しなければなりません。

 しかし、このデータは実験や経験では検証できないので、「様式化された」仮想モデルを考え、コンピュータシミュレーションによる安全評価などを通して、安全について学術の体系化を進めることがその内容です。

安全評価とは具体的にはどのようなものですか。


 まず、専門家が最悪な状況を考慮したモデルを作成します。これを「保守的な仮定」と呼びます。しかし、このような極端な例に対して対策しようとするとコストがかかりすぎるので、その兼ね合いを見る必要があります。

 そこで、得られた確率とリスクそのものの大きさを考慮して数値化することで安全評価を進め、その結果安全かどうかの判断が行われます。確率を例に説明すると、事故が10万年に1回起きるなら確率を10の-5乗とするように、10の階乗で表します。

3.11の前後で安全評価について変わったことはありますか。


 今回の事故は、決して想定外ではありませんでした。想定していなければならなかった問題であり、それを結果として見逃したのであれ専門家と言われる立場のものとしては、痛恨の極みで、猛省すべきものです。
 私自身は、原発での勤務経験からも「安全神話はない」と言えますが、教育者として、また原子力の安全について社会に発言をしたことがある者として大変恥ずかしいと思っていますし、反省をしているところです。

 リスク評価では、評価する人間が想定できる範囲外のリスクを考慮できないという弱点があります。今回の事故を受けて考慮すべき要素は間違いなく増えました。これまで以上にあらゆるリスクに対応することこそが工学に新たに突きつけられている課題だと思います。

これから研究者としてやっていきたいことは何ですか。


 一つは、安全評価における不確かさを少しでも小さくしていきたいことです。もう一つは、社会とのやり取りの中でどのように安全性を示していけばよいかということです。

 例えば、放射性廃棄物の処分施設を作ろうと思ったら、付近の住民に安全性について理解してもらう必要があります。また、同一民族の割合が比較的高い日本の場合と違い、多民族国家で異なる価値観を持つそれぞれの民族に対してどのように説明していく必要があるかという点にも興味があります。
 4月からカナダの大学に赴任しますが、そこで多民族を相手に安全性をどのように示せばよいのか、外国から日本を眺めて両者でどのような違いがあるのかという点を見てみたいと考えています。

これからの原子力はどのようになると考えていますか。


 今後も原子力の研究をしていく必要があると考えています。
 なぜなら、戦後になってから発展した分野で分かっていないことも多いため、技術開発をしていく余地がまだまだあるうえに、中国や東南アジアなどの現在発展途中にある国々を中心に原子力が推進されていくと予想されるからです。日本が原子力大国であることは間違いありませんし、世界唯一の被爆国として、原子力の技術にこれからも責任を持って取り組むべきです。


長崎研究室のHP

(インタビュアー 森西亨太)


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