サイエンスカフェ報告
 水でできたプラスチック -アクアマテリアル-

[PDF]  2011年10月号 [第44号]化学・生命系3学科特集 
[化学]  [特別企画]  [化学生命工学科] 

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 研究というと、「難しそう」「とっつきにくそう」などと敬遠がちですが、工学部では多くの魅力的な研究がなされており、それらを一般の方に伝えたいと私達Ttime!は考えています。

 そんな思いの下、「アクアマテリアル」というテーマで一般向けのサイエンスカフェを開催いたしました。
 早速、企画・運営を行なってくれた長谷川くんによるレポートを紹介します。同内容が[記事]にもまとまっておりますので併せてご覧下さい。



今回のサイエンスカフェ
のイメージキャラクター
「アクマテ君」

 7月23日(土)に開催された東大テクノサイエンスカフェをリポートします。

 今回は小学校高学年から中学生を対象として、化学をテーマに行いました。総勢100名以上の方にご参加いただき、大変盛り上がりました。

 前半は、講師として化学工学生命専攻の相田卓三教授をお招きして、注目の新素材「アクアマテリアル」について興味深いご講演をいただきました。お客さんは実際にアクアマテリアルに触れてその感触などを確かめることが出来ました。

 後半は私たち工学部広報アシスタントが学生企画「ふれあい化学講座」を担当しました。この企画では学生と子どもたちが混じってカルタをしたり、化学クイズをしたりして一緒に楽しみました。


相田卓三先生特別講演より



化学生命工学科 相田卓三教授

 現在使われているプラスチックは有限な資源である石油を原料に大量に用いて製造される上に、燃やすと温室効果ガスである二酸化炭素を発生します。

 一方で、地球上に多量に存在し、常に循環している水を原料に用いることが出来れば、環境に優しくて、永久的に使い続けることできるような材料となるでしょう。私たちの研究室ではそのような考えのもと、ほとんど水でできた新素材「アクアマテリアル」の研究開発を行なってきました。



魅力的なプラスチック:アクアマテリアル


アクアマテリアル

 アクアマテリアルは2%の粘土質の粉末(クレイナノシート)と0.2%のバインダーと呼ばれる高分子、そして約98%の水から構成されています。このアクアマテリアルは非常に興味深い性質をたくさん持っています。

 まずは、その合成の早さと手軽さです。上で述べた材料を混合し、震とうするだけで一瞬で固まり、アクアマテリアルが出来上がります。このようにアクアマテリアルは材料さえあれば、どこでも簡単に、すぐ作ることが出来るのです。

 また、この素材は「自己修復性」という性質を持っています。 それは刃物などで切ってしまっても、切り口を接触させることで、切り口同士が勝手にくっついて元通りになるという性質です。当然アクアマテリアルはほとんど水で出来ているので燃えません。

 また、熱を加えると白く濁り、冷やすと透明に戻るという性質を持つものもあります。その上、アクアマテリアルは埋めれば地中の微生物により分解されてしまうようにデザインされているので、簡単に廃棄することができ、環境にも無害です。

 このような多くの優れた性質により、アクアマテリアルは現在さまざまなものへの応用に向けて、更なる研究を進められています。


ハイドロゲルは多くの可能性を秘めている


非常に強靭なDNゲル

 また、私の研究室のアクアマテリアルの他にも、日本では優れたハイドロゲルの研究がされています。

 北海道大のGong先生らが開発されたDN(ダブルネットワーク)ゲルは非常に強靭で、ゴルフクラブで打っても壊れず、形も崩れません。また、東大の伊藤耕三先生らが開発されたトポロジカルゲルは表面を傷つけても自然に修復していく性質を持っていて、自動車の塗装などに用いられることが期待されています。その他にも、川村理研で開発された引っ張っても切れないハイドロゲルや、東大の吉田亮先生の「歩く」ハイドロゲル、そして慶応大の脇田玲先生の磁力で操れるハイドロゲルなどが研究されています。

 このように水を原料とした高い性能を持った素材を石油があるうちに研究することは、私たちの後世の人々が、石油の枯渇を心配することなく暮らせるような社会をつくることに繋がります。プラスチックの80年にも及ぶ長い歴史に対し、ハイドロゲルの研究は始まってまだ数年です。そのため、プラスチックに価格や性能の面ではまだまだ及びません。しかし

 将来、皆さんのような若い世代から、この分野に携わる研究者が多く現れて、今後もっとアクアマテリアルの研究が発展していくことを期待しています。


Ttime!メンバーによるサイエンスカフェ



第1部 わくわく化学カルタ


化学カルタで遊ぶ参加者のみなさん

 6、7人のグループに分かれた子どもたちは、各テーブル一人ずつついた大学生、院生を中心に、まずはカルタでアイスブレイク。といっても普通のカルタではなく、ひらがなのかわりに化学元素になった「化学カルタ」を使って、「元素」とは何か、どんな種類があるかについて遊びながら学んでもらいました。シークレットカード「カルシウム」を取ったお子さんには賞品を差し上げました。


第2部 化学クイズ大会


化学クイズに挑戦!

 カルタでメンバーが打ち解けてきたところで、いよいよメインの化学クイズ大会!これは子どもたちに、化学について自分の頭で考えるという体験をしてもらい、そして化学を分かる楽しさを味わって欲しいという思いから考案された企画でした。すこし難しいかなとも思われましたが、学校で全く習ってもいないことでも、説明を聞き、しっかりと考え、自分の意見を発信できる小中学生の皆さんに感心させられました。


今後へ向けて



 この学生企画はお客さんの「学生と接する場が欲しい」という声を受けて考えられた、初めての取り組みでした。うまくいくか不安もありましたが、多くの方にご協力いただいいたおかげで良い企画にすることが出来ました。またこのような機会があれば、得た反省を生かして、よりお客さんに楽しんでいただける企画にしていきたいです。

相田研究室のHP


(レポーター 長谷川 拓人)




化学クイズに挑戦!


 小中学生のお客さんに出題した化学クイズに読者のみなさんも挑戦してみましょう!小中学生向けだからといって甘く見てはいけませんよ。

Q1. 一円玉を構成するアルミニウム原子の大きさがピンポン球くらいであったとすると、その一円玉の大きさはどのくらいでしょう

A. 東京ドームくらいの円
B. 北海道くらいの円
C. 月くらいの円

Q2. 紫キャベツのエキスに重曹と、クエン酸を加えたとき、変わる色の組み合わせとして正しいのはどれでしょう?

A. クエン酸-オレンジ、重曹-緑
B. クエン酸-赤、重曹-青
C. クエン酸-黄、重曹-青

Q3. 牛乳を加えて固まるおなじみのデザート「フルーチェ」。実は牛乳以外でも固まらせることができます。次のうちフルーチェを固まらせることができるものはどれでしょう?

A. レモン汁
B. 酢
C. にがり

答えはTtime!44号をご連絡ださい!


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