循環型の町づくり

[PDF]  2011年10月号 [第44号]化学・生命系3学科特集 
[化学]  [バイオ・メディカル]  [化学システム工学科] 

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 皆さんは、「バイオマス」という言葉を耳にしたことはありますか?バイオマスとは、生物由来の再生可能な有機資源のことです。この再生可能な資源を利用して、「バイオマスタウン」をつくるユニークな取り組みがなされています。

 今回は、日本国内のみならずベトナムでも精力的に研究に取り組んでおられる東京大学生産技術研究所の迫田先生に、お話を伺いました。



Q.研究内容について教えてください。


 再生可能な資源としてバイオマスは魅力的です。私たちの研究室では、この資源を物質やエネルギーとして活用するシステムを確立するために、バイオマスタウンの設計・実証と、必要な技術の開発を行っています。

 具体的には、ひとつの地域を単位として、エネルギー収支、物質収支、水環境や雇用など総合的に考えて、経済的にも自立できるモデルケースづくりに千葉県香取市、長野県信濃町、ベトナムのホーチミン市で取り組んでいます。

Q.バイオマスを利用すると太陽光発電などと比べてどのような利点があるのですか?


 風力発電は風車建設、水力発電はダム建設、太陽光発電は大規模な太陽光パネルの設置など、クリーンエネルギーとはいえ、それぞれ環境や景観に影響があり ます。しかし、バイオマスを利用すれば、水田は水田のまま、林地は林地のまま、といったように、地域の人たちがその土地の「原風景」を残しつつ生活を営んでいけるのです。

 また、バイオマスをエネルギーの観点だけで捉えれば確かに採算をとるのは難しいかもしれません。しかし、バイオマスからバイオ燃料や電力などのエネルギーを取り出し、その際に生じる副産物を肥料や飼料として活用、さらに、廃棄物処理や排水処理も同時に行うなどの工夫をすれば、全体ではプラスの利益になり得ると思っています。

 新エネルギー事業の導入には、その地域の特性に合わせた手法を導入すべきで、その選択肢の一つとしてバイオマスがあると私は考えています。

Q.なぜ、ベトナムでのバイオマスタウンの実証に取り組んでいるのですか?


ホーチミン市工科大学の
バイオエタノール製造パイロットプラント

 10年程前から国内で取り組んでいたのですが、6年程前に東南アジアの開発途上国に注目しました。そういう国や地域は、バイオマス資源が豊富でエネルギーの使用量は少なく、人件費も安いので、農地とか環境を守りながら、バイオ燃料やバイオマテリアルを活用しつつ開発されればいいのではないかと思い始めました。

 ベトナムはメコンデルタに代表される広大な穀倉地帯を有し、わが国と同じ水田稲作を中心とする農業が営まれていて、利用できるバイオマス資源の量が多いことが魅力です。


Q.こうした地域での取り組みで大切なことは何ですか?


 バイオマスタウンの実現は農学、工学、バイオなど、自分の分野だけでなく様々な分野の方と連携しながら取り組まないとできません。加えて、地域での活動には、その地域の人との信頼関係が欠かせません。

 特に、ベトナムでは社会体制も日本と異なるので、特にこのことには配慮が必要だと思います。たまたま、そこに大学のOBがいたりすれば話も早くなります。人脈は大切ということですね。

Q.最後に読者にメッセージをお願いします。


 他大学の学生と比べて、最近の東大生に視野の狭さを私は感じています。だから、入学したら猛勉強はちょっと休んで、いろいろなことに取り組みながら、広い視野を持ってください。私の研究も専門分野以外の方と協力して取り組むことで成り立っています。ちなみに、化学システム工学科・専攻には、様々な分野の研究者たちがいます。ちょっとウエブサイトでものぞいてみて下さい。


迫田研究室のHP

(インタビュアー 松浦 慧介)

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