生体分子を医薬品に!

[PDF]  2011年10月号 [第44号]化学・生命系3学科特集 
[化学]  [バイオ・メディカル]  [化学生命工学科] 

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 和田先生は、柏キャンパスを拠点として、医用機能分子工学分野の研究をしています。今回は、20人の学生をお一人でまとめながら、精力的に研究開発を進めている先生が、実用化を目指している核酸医薬のお話を中心に伺いました。



Q. 研究内容を教えてください。


 私たちの研究室では、DNA、RNAといった核酸をベースにした生体分子を作り出す研究をしています。天然に存在している生体分子を化学的に改変・修飾して、人工的な生体分子を作ることで、私たちは医薬品を作ろうとしています。

Q. どうしてDNAやRNAが薬になるのですか?


 現在、30億あるという人間の遺伝子のDNAの塩基配列を全部解読し、体内で起きていることを遺伝子レベルで理解できるほど、技術は進歩しています。

病気の原因となるような遺伝子配列もわかってきたため、その塩基配列に選択的にくっつくような配列を持った核酸を外から入れて、その有害な遺伝情報にふたをすることができます。すると異常なタンパク質が合成されなくなることから、ある遺伝子配列に特異的に結合するような薬があれば、病気の発症を防ぐことができます。

Q, ではなぜ化学的に修飾する必要があるのですか?


 天然型のDNAやRNAを静脈注射などで細胞の外から加えても、実は薬としての効果を発揮することはできません。体内にたくさんある核酸分解酵素が、それらを数分で分解してしまうからです。そこで、もっと体内での安定性を高めるため、化学修飾を加えて天然に存在しない形にし、酵素に認識されないようにしています。

和田先生が研究している
人工生体分子の例。
RNAに特異的に結合
することができる。

 ただし、化学修飾をすると、右手と左手のように重ね合わせることのできない立体異性体が生じることがあります。しかもこの右手と左手の立体異性体ではそれぞれ薬の効き方が異なるため、作り分けないと医薬品として認可されません。

 そこで、私たちの研究室ではこの立体異性体を厳密に作り分ける実用的な方法を世界に先駆けて開発しました。今まで研究されてきた人工核酸は、右手と左手の立体異性体の混合物だったため、薬として機能させるには非常にたくさんの量を投与する必要がありました。しかし、一方の異性体だけからなる人工核酸を合成すれば、投与量を少なくすることができます。


Q. 医薬品の実現に向けて、ほかに問題はありますか?


 核酸医薬をどうやって標的細胞に特異的に運ぶかという問題があります。

 通常の静脈注射の方法では核酸医薬が血流に乗って体全体を巡っている間に薄まってしまい、効率よくありません。できれば濃縮した形で患部に集める必要があります。
 そこで、たとえば肝臓で代謝されるビタミンEに核酸医薬を結合させることで、肝臓に特異的に薬を運ぶ研究を行っています。

Q. 将来的に目指していることを教えてください。


 技術的な水準は高まってきているので、いかにしてそれを実用化するかということに最大の力を注いでいます。そのために柏キャンパス隣の東葛テクノプラザに大学発ベンチャーを立ち上げたり、2年前からボストンでハーバード大学と共同研究したりしています。今はアメリカで薬の認可を取ることを目標に、具体的にどの疾患を標的とするか考えながら、開発を進めています。

Q. 最後に、学生へのメッセージをお願いします。


 研究に没頭できるのは長い人生の中で今しかないので、惜しむことなくどっぷりとその醍醐味を味わってほしいと思います。今を完全燃焼してください。


和田研究室のHP


(インタビュアー 大嶽 晴佳)

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