次世代インターネット実現へ
 ~右手に研究、左手に運用を~

[PDF]  2011年10月号 [第43号]電気系学科特集 
[情報]  [社会]  [デザイン・設計・計画]  [電子情報工学科] 

この記事をブックマークする   



 一つめのインタビューでは、電子情報工学科・江崎研究室で次世代インターネットの研究開発をされている江崎浩先生にお話を伺いました。次世代インターネットがなぜ求められているのか、そしてその実現に向けての取り組みについて語っていただきました。




Q.研究内容について教えてください


 次世代インターネットの研究開発をしています。

 もともとのインターネットはコンピューター同士をつないでいました。最近はそこにスマートフォンが入ってきました。ここにさらにセンサーやカメラ、照明など「コンピューター以外のもの」をつなげ電力を効率的に使用し、省エネ化や利便性の向上を目指すのが次世代インターネットの考え方です。その実現に必要な要素技術の開発と、社会展開するための産学連携プロジェクトをやっています。

Q.なぜ次世代インターネットが必要なのですか


 今のインターネット技術は出来てから40年以上経っており、技術の前提が全く変わっています。例えば今のインターネットはコンピューターが常につながっている状態を仮定してすべてのデザインがなされています。ですがこれから必要とされるモバイル、宇宙空間における通信などではしばしば電波が途切れるし、遠距離通信する必要があるので、現在のネットワーク構造では動きません。

 さらにスケールの問題もあります。最初のインターネットは4台のコンピューターから始まり、60億個、つまり人の数くらいつなげればいいと想定されていました。しかし現在はその3ケタ以上多いものがつながるようになったため、大規模化に対応する必要が出てきました。これらの点から、インターネット全体のデザインを見直す時期に来ています。

 実際に問題はもう具現化していて、先の東日本大震災の際にも、被災地にコンピューターを持ちこんだはいいものの無線でのインターネット接続が全く機能しないという問題が起こりました。災害地でインターネットを機能させるには、遅延が大きくなってもきちんと情報が届くような新しい仕組み(遅延耐性ネットワーク)が必要だと分かったのです。私たちはこの遅延耐性ネットワーク技術の開発も行っています。

Q.次世代インターネット実現に向けての取り組みは


 要素技術としてはそれほど難しくないのですが、産業として次世代インターネットを動かすためには、コンピューター以外のものが情報交換できるような社会基盤を作ることが必要です。

 例えば電気自動車をインターネットにつなごうとすれば自動車業界や電力業界に、照明をつなごうとすれば蛍光灯やLEDの業界に、今私たちが作っている要素技術を受け入れてもらわなければいけませんよね。受け入れてもらうにはビジネスモデルを示さなければならない。一つのビジネスモデルを示すために東大グリーンICTという省エネプロジェクトをやってきました。

Q.グリーン東大ICTプロジェクトとは


 まず、省エネに関係するコンピューター、ゼネコン、不動産、システムインテグレーターなどさまざまな業界の人を説得し、そういった人たちが話し合える場所(コンソーシアム)を作りました。これにより、本来競合相手である企業同士が、共通の規格でシステムをつなげることが可能になりました。要素技術の部分は大体できていたので、次にそうした業界の人に省エネでビジネスが成立することを示すための試験用プラットフォームを工学部2号館に作りました。

 具体的には、工学部2号館の電気系統の制御部を、インターネット経由で触れるようにしました。

コンピューターから各部屋の使用状況を確認し、エアコンや照明のコントロールができる

 例えば、2号館の各部屋に設置してあるエアコンはインターネットに直接つながっていて、手元のタッチパネルはもちろん、コンピューターやiPad、スマートフォンからでもインターネット経由で直接コントロールできます。電力の使用量をそうした端末から見ることもできます。

Twitterで30分ごとに工学部2号館の
電力使用量が配信される

 また各部屋に付いている人感センサーもインターネットにつながっていて、人感センサーの情報に基づいて部屋の使用状況をチェックし、部屋の予約システムと照らし合わせて無断使用も調べられます。照明のオン・オフもできます。こうした設備は通常ある企業が独自の技術・規格で作っていて勝手につなげることができません。

 このプロジェクトでは、コンソーシアムを通して新たな規格を作成することで、2号館内のさまざまな製品をネットワークにつなぐことができたのです。工学部2号館は年間1億円くらい電気代を払っているので、例えば20%の省エネとすれば、2千万円節減できるわけです。このプロジェクトで2号館の設備に投入した資金は5千万円程度ですから、2年半くらいで元が取れる計算になります。

 要素技術は難しくないと言いましたが、もちろん困難はありました。エアコンや照明はインターネットの規格では動かないので、どういった技術を使うかという問題や、電波が不安定な場所ではどうするかといった問題です。電波に関しては現在も研究段階ですね。


Q.今後の研究の目標を教えてください


 重要なことは、ネットワーク技術として大したものでなくても、上手にデザインすると、いろんな応用ができるということです。

 例えば2号館では、ある部屋に何時から何時まで人がいたかということも分かります。ここから、業務に無駄がないか、働きすぎていないか、ということが分かります。もともと省エネプロジェクトだったものを、業務改善に応用したわけです。こうした事例を示せば、例えば今までエアコンしか売っていなかった企業が別のフィールドに出ていけるかもしれません。私たちの夢は、それで産業を効率化し、日本の産業界が世界規模の市場に進出していってくれることですね。

Q.最後に読者に向けてのメッセージをお願いします


工学部2号館内に設置された端末
からも電力使用状況を確認できる

 私たちのモットーは「右手に研究、左手に運用」です。研究はある意味世の中のためにならなくてもいい。けれど、運用つまりエンジニアリングは社会に受け入れられないと使えません。研究と運用の両立が重要なわけです。

 学生の皆さんには、科学技術の研究をしている人間として、社会への責任を考えてほしいです。ひきこもらず、ちゃんと社会のために仕事しろ、ということですね(笑)


江崎研究室のHP

(インタビュアー 本田 信吾)





[PDF]  2011年10月号 [第43号]電気系学科特集 
[情報]  [社会]  [デザイン・設計・計画]  [電子情報工学科] 

トップへ戻る