本研究に関する論文が公開されました。本文はこちらに掲載されています。プレスリリースはこちらです。
福島第一原子力発電所内の井戸水には、トリチウムがほぼ常時観測されています。そのトリチウムが地下水を通じて敷地の外に継続的に漏れ出ていることを私たちの研究チームが明らかにしました。検出場所は、原発南側、大熊町夫沢地区の一部分です。検出された濃度は平均して20 Bq/kgでした。この濃度は、東京電力が定める排水の基準(1,500 Bq/kg)や国が定める排水基準(60,000 Bq/kg)といった規則と比較しても十分に低く、規制上の問題にはなりません。
しかしながら、地下水を通じてトリチウムが漏れ出していることは、「人間が管理できていない放射性物質」が存在することを意味しています。漏洩しているトリチウムはたまたま規制値以下でしたが、地下水を通じて敷地の中から敷地の外にトリチウムが流れる「筋」(水脈)が出来てしまっている以上、廃炉作業中の長い間に予期せぬ大規模な漏洩が発生する可能性があります。そのため、海に限らず、陸側の地下水も検査の体制を強化するべきだと考えます。
敷地内地下水バイパスの井戸水のトリチウムの濃度と比較すると、今回検出されたトリチウムは清浄な地下水で相当希釈されていると想定されます。そのため、漏れ出た水の大元が「汚染水」なのか「処理水」なのか判定するためには、より丁寧な分析が必要になります。この点については、また追ってご報告する予定です。
また、ストロンチウム安定同位体比の分析から、福島第一原発から漏れてきているトリチウムの水脈は複数あることが示唆されています。今後、処理水の海洋放出の是非が議論されることと思いますが、海側だけでなく、陸側地下水への漏洩もきちんと実態を調査する必要があると考えます。
引き続き調査を続けてまいりますが、採水のエリアは、除染が全く行われていない場所(空間線量率は10 - 20 μSv/h)である事に加えて、野生動物(イノシシ)に遭遇しながらの調査であり、調査は容易ではありません。ぜひ暖かいご支援賜りますよう心よりお願い申し上げます。