水道水は毎日使うものですから、水道水に放射性セシウムがどの程度含まれるのか、という疑問や不安は至極当然のことです。そして、もし放射性セシウムを簡単に取り除くことが出来るのであれば、需要のあることかもしれません。このコラムでは、放射性セシウムを除去出来るとされる市販品が実際にどの程度の性能を有しているのか、検証実験を行いました。
検証は、2019年5月に、ある市販品の浄化装置と、東京大学駒場1キャンパス16号館の水道水を用いて行いました。使用した水はごく普通の水道水です[1]。
浄化装置は、入水方向から「人工ゼオライト」(以下Aとします)と「天然ゼオライトと活性炭」(以下Bとします)の2つのパートに分かれていました。
A, Bそれぞれの吸着剤を取り出してみます。
まず、これらのA,Bの2つの浄化剤について、水道水を流す前と、流した後で比較して、放射性セシウムをどれほど吸着するのか実験してみます。
通水前(Bq/個, 137Cs) | 通水後(Bq/個, 137Cs) | |
A | N.D.(0.0362) | 0.169 |
B | N.D.(0.0402) | 0.241 |
この表にあるように、水道水を流したことで、Aからは0.169 Bqが、Bからは0.241 Bqの137Csが検出されました。
それでは、ここで、水道水に含まれていた137Csが、すべて浄水器に取り込まれたと仮定します[1]。流した水道水は3,587 L でした[2]ので、水道水中の137Csは
(AとBを足した量)/ 流した水の量 = (0.169 + 0.241)/ 3587 = 0.000114 Bq/L …(1)
もし、この浄水器が水道水に含まれる137Csをすべて捕捉できているとしたら、大元の水道水には0.000114 Bq/L程度の137Csが含まれていたことになります。
次に、この浄水器の捕集効率を計算するために、水道水に含まれる137Csを公定法[3]に基づいて測定しました。その結果、137Cs の濃度は0.0024 Bq/Lでした。この結果を(1)と比較すると、当該の浄水器で捉えた137Csは実際の量の約4.8 %に相当します。
これらの事実から、一般的な通水条件下[2]において、この浄水器が捉えることが出来る137Csは水道水中のわずかな量であり、捕集の効率は高くありません。
検証を行った条件はページ下の注釈の通りですので、多くの方のクロスチェックを期待しています。
なお、当該のゼオライトには天然の核種(NORM)が多数含まれていた事をGe半導体検出器で確認しましたので、137Csの定量(0.661 MeV)にはGe半導体検出器と同程度のエネルギー分解能が必須です。
2011年以降、東日本には水道水中に放射性セシウムを検出できるエリアがあります。しかし、その放射能のレベルは非常に低く、水をそのまま直接測るような測定方法では137Csが検出されることはなく、試薬や濃縮の操作を行って初めて検出できるほど微量です。
そうして測定された値にも、地域や採取した日によって変動がありますので、詳しい情報は下記の規制庁のウェブサイトをご参照ください。
[1]さらに、通水前の放射能を検出下限値ではなく0 Bq と仮定します。
[2]通水条件は、一般家庭の用途を想定し、流量(SV)700(水量は1 分間あたり約2.2L、シャワーの1/3 程度の流量)と設定し、室温、研究室内の水道水(Ca 6.02 mg/L, Mg 5.25 mg/L, 硬度36.7)を用いています。
[3]「ゲルマニウム半導体検出器等を用いる機器分析のための試料の前処理法」に則り、約11倍に濃縮後にHPGe でガンマ線を測定しました。Ge半導体検出器によるガンマ線の測定時間は約59万秒です。