福島第一原発事故以降に開発された個人被ばく線量計のひとつに「Dシャトル」(千代田テクノル社製)という製品があります。この被ばく線量計には、1時間おきに被ばく量を記録できたり、1年間電池交換不要だったりする特徴があり、大多数の個人被ばく管理に有効です。しかし、一方で、実際に使用するユーザー側には注意すべき点があります。本コラムでは、これまでに頂いたたくさんのご質問を踏まえて取説にはあまり明示されていない点をユーザー側の視点からお知らせしてみます。
Dシャトル本体を簡易の読み取り機に挿入すると、これまでの被ばく量が表示されます。その表示は2行で、上の行には積算日数と総積算線量(「xx d」(xxには数字))があり、下の行には、1日あたりの被ばく量(μSv:単位注意)が「1d」として書かれています。積算日数「xx d」は、最後にデータをパソコンに抜いた日からの積算で、総積算線量はその間の累積の被ばく量(mSv:単位注意)が表示されます。
下記の画像は千代田テクノル社のウェブサイトに掲載しているものですが、「1d」には0.9 μSv, 「100d」は100日間の総積算線量として、0.1317 mSvが例として挙げられています。
画像は千代田テクノル社のウェブサイトにリンクさせて頂きました。
さて、この画像にあるように、「1d」は「昨日の積算日数」と表記があります。ここが注意すべき点で、この場合の1dとは、前日の00:00から23:59までを指します。そのため、仮に一次立ち入りなどで空間線量率の高い場所に数時間滞在した場合であっても、その数値はその日中には1dの横には表示されません。立ち入り当日に1dに被ばく線量が数値が表示されないのは、故障ではなく仕様です。
その一方で、総積算線量(「xx d」)は、直前までの線量を常に累積していますので、当日立ち入りして被ばくした分も加算されています。そのため、立ち入り当日には、1dは大きな変化無し、しかし総積算線量では数値が増えている、という分かりにくい現象が起きます。
このような仕様のため、立ち入りなど普段とは異なる高線量の場所に滞在した場合に、その日の被ばく量を確認したければ、
という3つの方法が考えられますが、いずれにしてもDシャトルは、他の個人被ばく線量計とは異なり立ち入り直後にその場で当日の被ばく量が直感的に把握できるものではありません。
同じ場所に置きっ放しにしたとしても、毎時間/毎日の線量が必ず同じ値になる訳ではありません。この理由としてDシャトル本体の精度はもちろん、Dシャトル間での個体差、気温(20度を基準に40度で<10%、0度で10%程度の温度特性)、天候(特に雨の降り始め)等多くの変動要因があるためです。
下記の図は実際にある場所に「置き去り」にしたDシャトルが記録した1日おきの線量(2週間分)ですが、このように揺らぎは必ず生じます(揺らぎだけでは故障とは言えません)。置き去りにしたとしても必ず一定の線量がずっと続くわけではありません。もちろん、複数の方が屋外で作業されていたとしても、その線量に様々な理由で差が生じます。
より正確な値を得るためには、Dシャトルよりも高精度な個人被ばく線量計が必要になるかもしれません。
このようにDシャトルは被ばくを管理する側としては便利なツールではありますが、一方でユーザー側には仕様がはっきり伝えられていない問題点があります。Dシャトルの故障を疑ったり、正確性に疑問を持たれる方がいらっしゃることはもちろん、配布する側(役場等)にもDシャトルの仕様を理解していなかったため(もちろん住民にもその情報が伝わらず)結局Dシャトルが何の意味もなさない例が数多く見受けられました。
現状には問題があると考え、千代田テクノルさんには役所やユーザーにも分かりやすい取扱説明書の配布をお願いして環境の改善を依頼しました(2019年4月)。