プロフィール

英語プロフィールへ

手記

東原和成 ┃ ACHemS 2017┃ 2017年4月25-29日

AChemSに参加して:久しぶりのサテライトミーティング

時差に完敗である。海外出張が久しぶりだったせいか、いつもはうまく時差を合わせられるのが完全に失敗した。時差ボケに入ると英語だけでなく日本語もでてこない。いわゆる頭がロックした状態だ。そんな状態でAChemSのサテライトシンポジウムでトリの発表をしてしまった。昨年は日本で6月にISOTがあったのでAChemSにはいかず、他に海外出張はなかったので、1年半振りくらいだったせいなのか。一応、この業界も長いのでこういう調整はプロになっているはずなのに、かっこ悪い。本来ならばトークで圧倒するべきだったのが、日本人によくありがちな膨大なデータで勝負という感じになってしまって極めて不本意だ。

 2年ぶりのアメリカである。トランプ政権でどんな感じになったか興味津々だったが、Passport control(入国審査)の行列で2時間かかり、予定のフライトを乗り過ごしたのが直接経験した「トランプ効果」か。入国審査では4−5人にひとりはすぐに通過できずに奥の部屋へ通されていた。こういうときに日本人は得である、というか平和な日本様様である。どうもトランプも賛否両論のようだ。ヒラリーがなったらなったで景気は絶対上がらないだろう、それに対してトランプならもしかしたらという期待があるのがアメリカ人的発想である。日本なら確実にヒラリーになっていただろう。そんなところがアメリカの懐の深さなのかもしれない。自分の脳のアメリカ核がじわじわっと刺激される。

 AChemSの現President(会長)はSteven Mungerである。今回はSteveのアイデアで嗅味覚の分子生物学・生理学領域のトピックを中心としたサテライトシンポジウムが開催された。私は講義の関係で初日出席できず最後の発表になってしまったが、全体で25名ほどのinvited speakerでかなり盛りあがりをみせたようだ。Steveは昨年のISOTでの我々のERATO&ISOTサテライトミーティングの成功に感化されて企画したと言っていた。AChemSも2000年代をピークに年々参加者が減りつつあるので人集めに必死である。しかし、時代の流れとともに人も流動的に動くのは当然である。逆に言えば、それがサイエンスの発展の証拠でもある。

 今回、研究室からは、私がサテライトで発表した他は、つい先月ドクターをとった小坂田君がポスター発表をした。私は、行動アウトプットに対してそれぞれの嗅覚受容体がどのような価値をもつかという新しい研究成果と、マウスの涙のフェロモンESP1の高次神経回路の話をした。どちらも私としては匂いとフェロモンの研究の最先端をいっていると思っているが、往々にしてこういうのは独りよがりなことが多いので、果たして評価はいかに。小坂田君はESP22の最新のデータを披露した。こちらはこれからトップジャーナルに投稿予定である。目標はいつも高い(笑)。そして、教え子で現在カルテックで独立してがんばっているAssistant Professor Okaもサテライトシンポジウムに招待されて話をした。彼が独立して始めた舌における水の受容機構について最新の結果を出していた。弟子も招待されて同じセッションで一緒に話すときが来るとは思っていなかったが、教育者の端くれとして感極まりない。

 そんな今回であったが、今年の4月から専攻長をやっていることもあり、学会途中で帰国である。昔の日本では、専攻長をやっている年は海外出張ができないというしきたりがあったが、いまはメールがあるので比較的許される。しかし、専攻を背負ってたっている立場なので長居はできない。しかも、一週間おいてドイツ出張が入っている。日本では専攻長はローテーションであるが、海外で専攻長(Department Chair)をやるとなるととても評価されるが、やはり海外でも同様に忙しい立場であるので同情される。50歳という節目の年にふさわしい忙しさと思って受け入れている。

 私も年をとったせいか、なかなか気合が入らないときもあり、今回の出張も手記が書ける気力がでるかなぁと思っていたが、いま、シカゴから帰りの飛行機ANAのなかであるが、鯖の生姜味噌焼きとおひたしなどの和食にフランス南Rhôneの白ワインがとても合い、しかもデザートのサツマイモ饅頭に大分の麦焼酎がこれまた相性がよく、気持ちがよくなって一気に脱稿である(笑)やはり美味しいものを食べるというのは身体によい。

 昨年ISOTでかなり英語をしゃべったので国際感覚が維持できたかと思ったが、実際は国内の国際学会では身体のなかの国際感覚が全く刺激されないようで、やはり、苦手な時差にも負けずに海外に出ていかないとだめだ。国際学会にでる気力がなくなったとき、サイエンスの世界から去るときなのかもしれない。パスツール曰く「それぞれのひとには故郷があるが、科学には国境はない」。往々にして日本のサイエンスはアメリカに良くも悪くも影響される。ネガティブなトランプ政策はまねしないでほしいと思う。

4月29日 シカゴー羽田便にて

TOPページに戻る