研究内容

化学感覚─ 匂い/香り・フェロモン・味

研究テーマの写真1

私達は、領域横断的な考え方と技術を駆使して、

化学感覚を、末梢の受容体から高次脳まで解明しようとしています。

人間社会では嗅覚は五感のなかでなくてもいい感覚として位置づけられていますが、実は、多くの生物では、匂いやフェロモンといった化学物質の情報を介して、食物の認知、個体の認識、生殖活動の誘発など生存に不可欠な行動や習性が制御されています。私達は、分子生物学、神経科学、細胞生理学、生化学など、領域横断的な考え方と技術を駆使して、匂いやフェロモンの嗅覚感覚の仕組みを、末梢の受容体から高次脳まで、分子レベル、細胞レベル、個体レベルで解明しようとしています。そして、種内あるいは種をこえた生物間におけるコミュニケーションの手段としての化学受容のメカニズムを明らかにし、いかにして、外界からのシグナルを生物が受容・認知し、行動・本能が制御されているかに迫りたいと思っています。

具体的には、7回膜貫通型受容体ファミリーに属する嗅覚受容体の構造的・機能的側面を解析し、匂いや香りの受容機構・脱感作機構・情報伝達機構を解析しています。嗅覚受容体の機能解析に関しては、私達のグループは世界的にも先端をいっているので、その経験を生かして、最近では、構造的にも面白いまた生理的効果のある匂いや香りの受容体にも注目しています。フェロモンに関しては、マウスを対象に、まずはフェロモン分子を見つけて同定することから始めて、その受容体の同定と機能解析をおこなっています。特に、第二の嗅覚とも言われている鋤鼻器官に発現するフェロモン受容体をターゲットとしています。標的とする匂いやフェロモンの受容体がわかれば、様々な遺伝子改変マウスを作製することによって、脳へ情報が伝達される神経ネットワークの可視化を試みます。また精巣に発現する嗅覚受容体の機能解析もおこなっています。ショウジョウバエやカイコにおける匂いやフェロモンの受容体の機能解析をする過程で、新規の情報伝達機構が明らかになってきています。研究室で使われている生物は、マウス、カイコ、ショウジョウバエ、カエル、植物、魚など多岐にわたり、一方で、大腸菌を使った分子生物学、培養細胞を使ったバイオアッセイなどが行われています。

嗅覚基礎研究は、脳神経研究の対象モデルとして注目されているだけでなく、原始から変化していない感覚系として行動、生態、進化との関わり、そして、香りやフェロモンが生体に与える影響として内分泌系との関連を考慮すると、極めて学際的学問領域であるところに魅力があります。また、数十万といった匂い物質の認識といった究極の分子認識として薬理学的にも情報の宝庫です。フェロモンによる個体間コミュニケーションは、パートナーの認識、生殖隔離および種の保存にとって大切な現象で、フェロモンの研究は、性の進化ひいてはヒトへの進化を理解するうえで大変重要な視点です。

私達人間も、食事をして美味しいと感じるのは、味覚だけでなく嗅覚(風味)が重要であることは忘れがちです。五感をバランスよく使えるのは人間だけです。私達の嗅覚基礎研究は、おいしさを追求する食品科学への応用、そして、臨床における嗅診や、社会の安心・安全のための嗅覚センサーの開発にもつながる、実用的な側面をたくさんもっています。我々人間も、健全な生活をおくるためには、バランスのとれた五感を維持することが大切です。社会から失われつつある「におい」の風景を大事にし、厳密に設計された嗅覚空間を構築することはポストゲノム時代の感性科学のひとつであると考えています。コンピューター情報社会のなか、だんだん失われていく人と人とのコミュニケーションの必要性を再認識し、食生活を豊かにすることを目標に、人類の幸せにつながるような新しい嗅覚の利用法を模索していきたいと思っています。

研究室のマウス
研究室のマウス

カイコ
カイコ

ショウジョウバエ
ショウジョウバエ

研究の手法

  • 生化学 タンパク質の精製・同定・発現、ウエスタンブロッティング、免疫沈降、タンパク質のリン酸化、タンパク質相互作用の解析
  • 分子生物学・
    遺伝子工学
    遺伝子クローニング(各種発現クローニング:培養細胞、アフリカツメガエル卵母細胞)、PCR、遺伝子構造及び転写産物の解析、
    遺伝子発現ベクターの構築、部位特異的変異の導入、in situ hybridization、遺伝子改変マウス
    (トランスジェニック、ノックイン、ノックアウト)の作製と機能解析
  • 細胞生物学 培養細胞での遺伝子発現解析、単一細胞内カルシウムイオン濃度変化測定、蛍光ラベルを用いた細胞内シグナルの可視化、免疫組織染色
  • 天然物化学 低分子有機化合物の精製、ペプチド性活性物質の精製、生理活性物質の構造決定
  • 神経科学・
    電気生理学
    アフリカツメガエル卵母細胞応答解析、パッチクランプ、嗅電図、脳切片染色、マイクロダイアリシス、ウィルストレーシング、脳イメージング(NIRS)、脳波測定、自律神経系測定
  • 行動認知 様々な行動アッセイ

酵母を用いた生体膜形態形成の解析

私たちの研究チームは、酵母の前胞子膜の形態形成をモデルに、

細胞内でおこる生物に普遍的な分子機構の解明を目指しています。

細胞や細胞内小器官がどのようにして一定の形態をとるに至るのか、そこにどのような制御機構があるのかについての研究はまだ始まったばかりです。私たちは、酵母の前胞子膜の形態形成をモデルにして、その分子機構の解明を目指しています。

酵母は真核生物に共通な分子機構の解明に適しています。例えば現在までに細胞周期や分泌などの、ヒトを含む真核生物の細胞の様々な生命現象が酵母の研究をもとに解明されてきています。酵母の前胞子膜形成過程は、他の生体膜の形成と同様に、膜輸送系、細胞骨格系、脂質を介したシグナル伝達系等により複雑に制御された過程であり不明なことが多く、その研究は、生物に普遍的な分子機構の解明につながります。私たちは、分子生物学(遺伝子操作)、生化学(タンパク質解析)、細胞生物学(顕微鏡を用いたバイオイメージング)、遺伝学(遺伝子のスクリーニング)等の手法を駆使して、この大きな課題にアプローチしています。

前胞子膜形成において働く遺伝子の多くには、高等動物に類似の遺伝子が存在し、それらが癌やその他の疾患と関係することも示されており、その分野の研究にも将来役立つと考えます。また、この過程は、減数分裂に伴う細胞分化の過程ともとらえることができ、細胞分化や配偶子形成の研究にもつながります。

研究詳細テーマ

  • 1

    脱リン酸化酵素(PP1)による前胞子膜伸長の制御機構の解明

  • 2

    前胞子膜形態形成におけるセプチン細胞骨格の役割とその制御機構

  • 3

    前胞子膜伸長における脂質シグナリングの役割(アメリカ・ストーニーブルック大学と共同研究)

  • 4

    小胞輸送・糖鎖生合成系の解析(中国・江南大学、東海大学と共同研究)

  • 5

    その他(東京農工大学と共同研究)

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