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手記

東原和成 ┃ European Chemoreception Research Organisation (ECRO)┃ 2015年9月1-5日

European Chemoreception Research Organisation (ECRO) (Istanbul, Turkey)

ヨーロッパの味と匂の学会であるECROは、毎年魅力のある都市で開催される。今年は、トルコはイスタンブールである。しかし、学会直前に、シリアとの関係で政情が悪化し、イスタンブールでテロが起きたり、米国とともに戦争参加を表明したり、暗雲が立ち込める。外務省から注意喚起がでるなど、多少心配もある。ただ、ある意味、リスクは日本以外の世界はどこでも同じであるのでこの程度で気にしていられない。10年ほど前にSARSが流行ったときにマスクをつけて飛行機にのってAChemSにいったことを思い出す。
イスタンブールに着いてみると、先週テロがあったとは全く感じられない。各々のホテルでは入口で簡単なセキュリティーチェックがあるが、それも最近厳しくなったわけでもないらしい。市民もいたって普段通りで、観光客も楽しんでいる。ただ確かに日本人は極めて少ない。警戒しているのは日本人だけで、日本は本当に平和な国なんだなぁと実感。本来ならば世界中が日本のように平和であるべきなのであるが。
さて、トルコの国の匂いはといえば、焼き焦がし系。まず、たばこの匂いと煙。意外と日本ほど気にならない。乾燥しているせいだろうか。次に、肉を焼く香り。チキン、ケバブ、そして露店の焼きトウモロコシ。その他、ちょっとした料理でも、食材を焼いたような焦がしたような香りがあり、美味しさを引き立てている。トルコ料理は日本人にも親しみやすい。一方で宗教の関係でお酒の種類は少ないし、レストランでもお酒がないところがあり、値段も比較的高い。そのなかで、トルコ人がよく飲んでいるのは、Bomomtiというビールと(日本ではEfesが有名だが)、Rakiというアニスの匂いのウォッカを水で薄めたもの(水で薄めると白く濁る)。ワインはというと、実はワインの発祥はこのあたりであるが、トルコ人はあまり飲まない。でもトルコワインもとても美味しい。
さて、学会はちょっと郊外にあるBoğaziçi大学。イスタンブールのヨーロッパ側とアジア側の間を流れるボスボラス海峡を望む美しいキャンパスをもつ。大会頭はStefan Fuss。 Peter Mombaertsのところにいたころからの知り合いである。昨年のECROで会ったとき、ぜひPresidential symposiumをやってくれと言われたので、Stefenの大学院生のときのボスのSigrun Korschingと一緒にOlfactory Neural Circuityのシンポジウムを企画した。魚、ハエ、マウスと3つのモデル生物を使って嗅覚の脳神経回路の解明に挑戦している研究者を集めた。魚はSigrunのほかは吉原先生、ハエはKadowとAxel研出身の新進若手女性Ruta。そしてマウスは私とDulac、の予定がDulacがファミリーマターで来れなくなりポスドクで最近独立先が決まった磯貝君(私が大変お世話になった元奈良先端大学長の磯貝先生の息子さん)。私はESP1に関する新しいデータを発表。座長であることもあり10分の持ち時間しかなく、超特急で話す。みなホットな話をしてくれて、概ねシンポジウムの評判はよかったようだ。磯貝君の仕事はうちの研究とかぶっていることがわかり多少焦るが、こちらは「もの」からのアプローチであるのでなんとかなりそうだが、うかうかしていられない。私はもうひとつ、Tom Bozzaがオーガナイズするシンポジウム(本来ならば白須さんが発表予定だったところ)でムスクの受容体の話を発表。ふたつの発表とも投稿中の話で未発表だったので手ごたえあり。今回はolfactionでレベルの高い人たちがたくさん来ていたので、いいアピールになったかなと思う。
日本人は私と吉原先生の他、坂野先生がKeynote speakerとして発表。一方でPeter Mombaertsが自らオーガナイズするシンポジウムで坂野先生の仕事を否定する発表をして若干険悪なムードが流れた。どうもジャーナルレベルでももめているようである。その他、Stuart Firestein, Charles Greerの仲良しコンビが発表。そしてLinda BuckがKeynote speakerだったので、全体として、新しくこの領域に入ってきたひとや、大学院生にとってはとてもよい学会だったのではと思う。学術的には基礎研究がどんどん進んでいるとともに、個人個人の遺伝子の多様性が、匂い情報を受け取る脳の感覚と情動と生理への影響とどう関係してくるか、嗅覚研究を人間社会にどう役立てていくかが今後の課題であろう。
会場での立ち話では、来年われわれ日本味と匂学会JASTSがオーガナイズするISOTのことがたびたび話にでた。シンポジウムは決まったのかと聞かれるたびに、今回は世界の嗅覚味覚研究者でプログラム委員会を結成して、投票をベースにフェアーに決めたよと言うと、それは極めて民主的だねと返ってきた。日本は平和で平等な民主主義の文化をもつ国なのだよと私が言ったら、いま戦争している国にも見習わせたいと。ところで、イスタンブールには多くの野良猫がいるが、極めて人懐っこくて、なにも警戒せずに、可愛がられに寄ってくる。私は、日本の猫にもイスタンブールの猫の文化を見習わせたいと言ったら、大ウケしていた。日本も安倍政権でそうもいっていられない状況に直面しているのは他国のみんなも知っている。日本が戦後作り上げてきた日本の誇るべき平和の文化を大切にしなくてはいけないと改めて思いつつ、帰ったら研究室のメンバーと緊急ミーティングだなぁと。社会とサイエンス、両方で考えさせられる出張であった。

平成27年9月7日機中

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