プロフィール

英語プロフィールへ

手記

東原和成 ┃International Symposium on Natural Products Chemistry & Chemical Biology ┃ 2011年11月19-22日

International Symposium on Natural Products Chemistry & Chemical Biology (Hangzhou, China)

中国は北京に二度いったことがあるが、今回、はじめて南のほうへいくチャンスがあった。上海の少し南にある、杭州である。広州ではなく、杭州・無錫・蘇州の杭州である。近くには、紹興酒の発祥の地である紹興市があり、そこには魯迅の生家がある。杭州の土は質がよいらしく、いい野菜がとれるせいか、比較的裕福な土地であり、空港から市内の間にある農家も小さなお城のような家をもつ。走っている車もアウディやBMWなど高級外国車が多い。市内もびっくりするくらいゴミがない綺麗な街であり、中国のなかの格差を感じる。

さて、今回は何のミーティングに参加したかというと、日中Natural Products Chemistry & Chemical Biologyミーティングという小さな天然物関係研究のシンポジウムである。企画、オーガナイズしたのは、名古屋大学の坂神先生と、坂神先生のところでドクターをとって現在浙江大学の教授をしているQi(チー)先生である。趣旨としては、日中の天然物関係の研究を盛り上げることと、坂神先生が定年間近ということでその記念シンポの意味もあったようだ。

日本からは、坂神洋次、上村大輔、福山透、河岸洋和、吉田稔、長田裕之、小鹿一、上杉志成、東原和成の9人である。私以外の先生は、有機化学、天然物化学、ケミカルバイオロジーの分野で著名な研究者ばかりである。相手側は、浙江大学と浙江工業大学の先生と若干名北京や上海からの天然物有機化学者が集まった。そして、二人ほどヨーロッパからの参加である。私の研究トピックは一見場違いに見えるが、匂いやフェロモンも二次代謝産物で天然物であり、私の研究アプローチも、「もの」をきちんと精製・同定してから受容体、そして脳へとはいっていくという、chemistry-orientedなものなので、比較的affinityはあるのである。

そもそも、私は有機化学出身者であるので、天然物関係のミーティングのトピックはとても楽しい。微生物や海産物などの生物が作り出す物質は、構造を見ているだけでわくわくする。なんでこんな複雑な物質を作りだせるのだろう。なんのために作るのだろう。進化の過程で、どんな選択圧がかかった結果なのだろう。そして、これらの物質の臨床面での有用性は無限である。匂いやフェロモンは比較的単純な構造をもったものが多く、臨床に直結するものは少ないが、同じ二次代謝産物として、その効能は別の側面で無限である。

中国における天然物のターゲットのひとつに生薬がある。杭州には多くの漢方生薬の店がある。冬虫夏草は中国元で何万もするなど、売られているものは極めて高価なものである。しかし、品質の高い生薬はとても効果があるそうである。中国の大学の薬学院では、生薬などの天然物から有用物質の単離をやっている研究者が多い。東洋医学の科学的根拠をとることは、中国でしかできないことであるという彼らの信念である。

私の研究室の初代教授の鈴木梅太郎先生は、留学先のエミール・フィッシャーのところから帰るときに「東洋の問題を解決しなさい」と言われて、脚気の問題にとりくみ、ビタミンB1を発見した。自分の国の問題を解決することは、科学者の使命のひとつでもあるが、それを特殊なケースにとどまらせず、普遍的な課題まで膨らませることも大切である。論文を投稿すると、お前の論文はgeneral interestとしては足りない、という言葉がよく返ってくる。自然の摂理には特殊性や例外はないと思う。それは単に、特殊な生活環境による選択圧に由来するものであることが多く、生物が選んだ仕組みの根本には共通性が存在する。その国でしかできないオリジナルな研究をめざすとともに、そのなかに共通原理を見出すスタンスは忘れないでいたい。

平成23年11月23日

TOPページに戻る