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手記

東原和成 ┃ International Titisee Conferences and Invited seminar at Frank Zufall lab┃ 2010年10月12-16日

国際TitiseeコンフェランスとFrank Zufall研でのセミナー (ドイツ)

学会ではよくエンターテインメントが催される。スイスに近い南ドイツのリゾート地で60人ほどの厳選されたメンバーで開催された今回のTitisee meetingでは、フルートとハープのDuoが演奏された。若干アルコールが回った身体に響く音を聞いていると、尺八と琴ではないか!そう思うと、ますます尺八と琴の音に聞こえてくる。違うのは旋律と抑揚だけである。今回のミーティングは、めずらしく日本人は私だけ、東洋人も私ひとりである。昨今めずらしいが、そんな雰囲気のなか、数日間日本語をしゃべっていなかった私の身体が震えるのを感じた。やっぱり欧米諸国に負けたくない。

Titisee meetingは今回で実に102回を数える伝統のあるドイツのサイエンスミーティングである。Boehringer Ingelheim(ベーリンガー・インゲルハイム)という世界でもトップ15に入る大製薬会社のFoundationが全面的にバックアップしている。第一回はなんと1962年まで遡れる。オーガナイザーはほとんどドイツ人で、今回もドイツのチャネル屋のThomas Jentschである。タイトルは、Sensory transduction, the gateway to perception: mechanisms and pathologyである。30人のinvited speakersと23人のparticipants(こちらも招待)の完全クローズドのミーティングである。視覚、聴覚、嗅覚、味覚、体性感覚(触覚、痛み)の分野で5-6人づつのトークである。それに加えて、Keynote speakerはGFPのノーベル賞受賞者のMartin Chalfieである。上記のように、日本人は私ひとり、嗅覚セッションはStuart Firestein座長のもと、Stephan Frings, Anna Menini, Peter Mombaerts, Gilles Laurent, Frank Zufallと私である。味覚は、Nirupa Chaudhari, Wolfgang Meyerhof, Robert Margolskeeである。ディスカッションの時間を十分にとり、三日間合宿形式で朝から晩までサイエンス漬けである。私は他の感覚分野の人たちへのアピールを考えて、匂いとフェロモン、動物もカイコとマウスと幅広く私達の研究を25分のトークのなかに詰め込んだ。今回は時差を考えてよく睡眠をとり、そして携帯味噌汁を毎日飲んだせいか、頭がクリアーな状態で発表でき、久しぶりに英語の発表がうまくいった。発表のなかの意外な部分に意外なひとが興味をもってくれて、若干時間をオーバーしたが詰め込んだ意味があったと思う。

さて、今回はドイツ二回目である。前回は、Heinz Breer氏とHanns Hatt氏を訪問したが、今回は数年前にHomburgに移ったFrank Zufall氏のところを訪問してセミナーをした。Frankとは鋤鼻器官の仕事で微妙に競合しているが、良いライバルであり良い友でもある。FrankがいるSaarland Universityはこじんまりとした雰囲気のよい大学で、Frank婦人のTreseとともに夫婦で教授である。大学外からも学生がくるようで、相変わらず鼻息があらい。しかし、最近の学生は実験を一生懸命しないといって悩んでいた。夕方はFrankの家でシャンパンをいただき、それからラボのメンバーとの食事にでた。去年フランクを日本に招待したときに食べさせたウニとあん肝が忘れられなかったらしく、お返しだとかで伝統的なドイツ料理を食べさせてもらった。やはり、肉とソーセージである。腸詰のパテとかブラッドソーセージ(肉の血合いの塩漬けみたいなもの)とかなかなかの珍味でドイツビールと最高の相性である。ドイツ人が飲んでいるのはだいたいピルスナーかヴァイツェンであるが、ドイツの料理とはピルスのほうが合うようである。

さて、ほろ酔い気分でDuoを聴いていたときに突然感じた尺八と琴。フルートとハープと何が違うのだろうかと考えてみたら、尺八と琴の音色には切れがあり、まさに、刀をふりかざしたような動と静の空間が作り出される。日本人として、切れ味のよい、躍動感のある仕事をしたい。海外出張は、自分が日本人であることの再確認と、最近なかなか論文を読めていない自分にサイエンティストとしての原点を思い出させる契機でもある。ミーティング中、何かと研究の話をする欧米人と比べて、日本では学会で会っても研究の話で盛り上がることが少なく何かと大学の雑用のこととかの話になってしまうが、それではいけないと反省だ。やっぱり欧米人のスケールはでかく、よく食べるし、身体も大きいし、夜中遅くまで飲みまくっても次の日は8時からパワー全開だ。これじゃ日本人は当然まける。帰ったら科研費申請書書き書きだ。

平成22年10月16日 フランクフルト空港へ向かうICE列車の中で

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