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手記

東原和成 ┃ 第二回日仏先端科学JFFoSシンポジウム ┃ 2008年1月24-29日

第二回日仏先端科学JFFoSシンポジウム@フランス

日本学術振興会は、米仏独などそれぞれの国と協力して、45歳以下の若手の研究者が集まって様々な分野の先端研究を議論する会議を毎年開催している。この会議は、物理、数学、地球惑星、化学、生物など多彩な科学領域のホットなトピックに関して、両国から選抜された若手が三日間ひざをくっつけあって議論するという、体力勝負の中身の濃い集まりである。なかでも、日本とアメリカの日米先端科学会議は、一番歴史が古く、10年ほど前に科学技術振興事業団が担当してはじまり、その後、学術振興会が引き継いでいる。私は7年前に、日米先端科学会議にディスカッサントとして参加したが、一緒に参加した研究者達は現在もバリバリに仕事をしているひとが多く、そのときに得た刺激とつながりは今でも貴重なものとなっている。今回私が参加した日仏先端科学会議は今年で二回目となるもので、昨年は日本で、今年はフランスで行われた。今回私はスピーカーとして参加を依頼されたが、場所はパリだよ、と言われて、うんそれはいい、と意気込んでいたところ、ふたを開けてみると、場所は、フランスでは「地の果て」とも言われているブルターニュ地方はロスコフという田舎であった。期待通りではなかったが、逆にこういう機会でもないとフランスの田舎にはいけないので貴重なものともいえよう。

ロスコフは、パリの西部、ブルターニュ地方でも北西に位置し、夏はイギリスまでのフェリーがでているという、第二のイギリス(ブリテン≒ブルターニュ)とも言われているところである。世界遺産モンサンミシェルよりもさらに西にいったところで、同様に潮の満引きが激しく、それもあってタラソセラピーという海水や海草を使った療養法が発祥した。食べ物ではクレープの発祥の地でもある。なぜロスコフかというと、ロスコフにはCNRSの臨海研究所があり、日本で言うと三崎の臨海研究所、アメリカのウッズホール臨海研究所などに相当するものである。CNRSがフランス側のオーガナイザーだったので、その研究施設が会議場となったというわけであるが、フランス側参加者いわく、会議中に「脱獄者?」がでないようにするための有難い?配慮だったらしい。

今回のトピックは、Beyond the standard model of particles(新しい粒子を発見しようという領域)、Cryptograph(セキュリティーシステムで活躍する暗号)、Decision making(動物の意思決定に関する神経科学)、Extrasolar planets(地球以外の生物生息惑星はあるか)、Materials for new energy resourses(環境を考慮したエネルギー開拓)、Music and musical invariants between cultures(音楽に関する社会科学)、Perception of self and non-self in biology(自己非自己の生物学)、Sensor(センサー)の8つの分野で、私はセンサー分野で生物がもつ感覚センサーについての話をした。各分野には、講演者を選抜するプログラムマネジャーと、領域の総括をするチェアー、そして各国からひとりづつのスピーカー、そしてディスカッサントが配置される。総勢80名(各国から40名)である。それに加えて、バックにつくオーガナイザーとしてフランス側のCNRSと日本側のJSPSのメンバーである。

とにかく日本からの参加者みなさん英語がうまい。そして、積極的に質問をする。しかも、質疑では、まずは自分の領域との関連を話したあとに、質問をなげかける。知的好奇心の塊、という感じのひとばかりである。私がすこしひいてしまうほど眼力が強く光っているひとばかりである。私の発表は最終日の最後のセッションであったので、それまでのセッションのディスカッションを聞きながら、最後の最後までスライドの変更を重ねた。先端研究をアピールしながら、一方で領域外のひとが興味をもつようにと最大限の配慮をしたつもりである。発表のあとは、スピーカーとチェアーをパネルにディスカッションの時間が40分ほどあった。分野外の人達とはいっても、一般市民からの質問とは違い、それぞれのサイエンス領域の切れ者からの質問となるとなかなかするどい。こちらがたじたじするようなところをついてくる。サイエンティストとして、常日頃から、幅広く知識を(英語で)導入していないとこういうときに機敏に対応できないな、と反省するばかりである。今回の会議で一緒になった人達がいずれ素晴らしい仕事をして有名になっていくんだろうなと思うと感慨深い。

今回は学術振興会からのサポートとあって、会議前後での余裕のある日程が組めない。公務であるのでしょうがないとはいえども、お役所の固いところではある。もとはといえば、ほんの一部のひとのルール違反によって多くの善良な研究者が不便さをこうむっているのである。もちろん研究費関連でもそうである。いろいろな制度も少しづつリーズナブルな方向に進んでいるとはいえども、研究者としてのモラルを守りつつ、自分達で自分達の首をしめるようなことがないようにだけはしたいものだ。一方で、いろいろな面で役所の矛盾するところも見えた。近年、COEなど巨額の競争的資金の導入により、どんどん大学格差を広げ、集中化が見られ、それに伴って学生の集中化もおきている。しかし、そんな格差社会を作る制度をどんどん導入しながら一方では、今回の会議などでは、メンバーはできるだけ東大とかに集中しないように、いろいろな大学から研究者を選抜したらしい。その理由も、対外的に日本は東大・京大だけではないというところを見せたいためらしい。JSPSのひといわく、方向性のジレンマはわかっていてやっているとのことである。

最後に付則であるが、今回参加依頼されたひとは、私などinvited speakerも含めてみんなエコノミークラスのサポートであったが、学術振興会から派遣されたお役人達はすべてビジネスクラス。これにはみんな怒っていた。税金の無駄遣いはまだまだ続く。

それにしても目が回る複雑怪奇な空港である。建築も文化も香り高い国からもしばらくお別れ。
(1月29日シャルルドゴール空港にて)

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