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手記

以下は、2003年日本味と匂学会誌論文集号に掲載されたセミナーツアー日記です

東原和成 ┃ Invited seminars at Monell Chemical Senses Center etc.┃ 2003年7月14-18日

2003年7月 米国東海岸セミナーツアーを終えて

 毎年募集がある文科省国際研究集会派遣の予算をご存じだろうか?これは意外と穴場で申請する人が少ないせいか、私は、AChemSやゴードン会議やISOTなどは毎年この予算が当たって参加している。今年のゴードン会議は、味覚中心でしかも脳中枢系が多くて、若干私の領域からはずれるので、いくつもりはなかったのだが、以前に申請しておいたものが今年も当たってしまった。飛行機にも時差にも弱く、しかもSARS蔓延中の4月のAChemSに学生を連れて参加したばかりなのだが、いかざるを得ない。そこで、以前から、コロンビア大学のStuart Firestein、エール大学のGordon Shepherd、モネル研究所の山崎先生に、渡米時には研究室に寄ってセミナーをしてくれと頼まれていたので、このチャンスにと思って、お役人の前では大きな声で言えないが、急遽、セミナーツアーに変更。そのほか、ロックフェラーのPeter MombaertsとLeslie Vosshall、デューク大学で私の元ボスのRobert Lefkowitzのところでセミナーをすることが確定。デュークは、松波宏明さんやLarry KatzやHubert Amreinなどがいて、嗅覚系でも盛り上がりを見せている。ゴードン会議では、日本から参加していた山本先生、長井先生、二ノ宮先生、伏木先生らとリラックスしながらじっくり時差をとって、今回の出張の本番に備えた。

 ゴードン会議が開催されたニューハンプシャーからボストンへもどり、最近、Larry Cohen研でのpost-docを終えてボストン大学で独立したMatt Wachowiakのところに寄ってみると、あの高価なTwo-photon顕微鏡が共通機器で入っている。うらやましい限りだ。その後、ニューヨークへ飛ぶ。ニューヨークは小生が89年から93年まで大学院生として過ごしたところ。なつかしい。Twin-towerはもうないが、当時よりは極めて安全な町になっている。週末は、高砂U.S.A.の調香師の鈴木隆さんのところにお邪魔になる。鈴木さんは、「匂いの身体論」「匂いのエロチシズム」などの著者で、ユニークな方で、親しくさせていただいている。一読を勧める。

 初日の7月14日は、マンハッタンPenn Stationから約1時間半のフィラデルフィアにあるモネル化学感覚センター。ここはもう読者の方には説明無用のところである。Gary Beauchamp所長と話したあと、セミナー。久しぶりの英語での講演で緊張ぎみ。その後、Nancy RawsonやGraeme LoweやPaul Breslinらとディスカッションをした。山崎先生の実験セットアップを初めて拝見して感動。モネル研究所は、嗅覚研究者が少なくなっている感じがしたが、近いうちに、隣のビルを含めてもっと広くする予定があるとか。GordonのところにいたMinghon Maが隣にあるU. Pennで独立していて、わざわざ来てくれた。

 7月15日はエール大学。Gordon Shepherd officeはちょっと前までJ. Neurosci. Head Quarterだった。現在投稿中だというfMRIを使ったマウス嗅球のイメージングを見せてくれる。相変わらず年を感じさせないアクティブぶりだ。Gordonのところから独立したWei Chenが極めて親切なもてなしをしてくれる。医学部からちょっと離れた素晴らしいメインキャンパスを案内してくれて、キャンパスのはじっこで一番背の高い建物にいるJohn Carlsonのところへ行く。Johnは、小生の単一嗅細胞からの嗅覚受容体遺伝子クローニング成果を以前から非常に評価してくれて、いつも、励ましてくれる貴重な友人だ。ショウジョウバエ嗅覚受容体の匂いとの対応付けが進んでいて、PIとして非常に良い教育者であることがラボの雰囲気をみてもよくわかる。小生のセミナーにはラボ総出で出席してくれたが、10分前には全員そろっていた!どちらかというと皆が自由に勝手気儘にやっているCharles Greerのラボの雰囲気と対照的なのが印象的だった。ボスの性格はラボに影響する、は確かだ。最後はWei Chenがディナーに招待してくれて、夜のメトロライナーでニューヨークへもどる。車中のため大リーグオールスターゲームが見れなかったのは残念だった。いや、遊びにきたのではない(笑)。

 7月16日はコロンビア大学。言わずとしれた小生の競合相手のStuart Firestein。競争者であるからこそ、未発表のデータを紹介して、先端をいっていることをアピールする。是非とも嗅覚受容体に関わる諸問題を力あわせて解決していこうと肩を組んで合意。でも、内心、共同研究ではなく日本発にこだわる小生だが。Firestein labではいろいろなプロジェクトが動いていて、みな自由に自分たちの才能を発揮して研究をしている印象をうける。夜は、Firesteinが毎日いりびたっているオペラ付きのイタリアンカフェでパーティー。店に来る人来る人知り合いで彼の交際範囲にびっくり。ちなみに、小生の研究室で単離したmOR-EG受容体は、Firestein labでpositive controlとして使われている。あれ、I7はどうしたのかな?(笑)

 7月17日はロックフェラー大学。Peter Mombaertsはオーストラリアにバケーション中だったので、Leslie Vosshallのところでセミナーをやる。Leslieのところも、Peterのところも、非常に広い。設備も整っていて、快適な空間である。LeslieはRichard Axelのところから独立して、ようやくラボも立ち上がったという感じ。Richardとは今でも情報交換をやっているそうなので、気をつけないといけないが、明るい人で気持ちがいい。小生は、昆虫フェロモン受容体の研究もしているので話が合う。以前に、日米科学先端会議というものに参加する機会があったのだが、たまたまLeslieが参加していたので、東大でセミナーをやってもらった。そのとき聞いていた日本人の学生が今彼女のところの大学院生をやっているらしい。ちなみに、小生のところを卒業した学生が、今度Peterのところの博士研究員として渡米する。世界はせまい。

 ロックフェラーでのセミナーのあと、ノースカロライナ州のデューク大学へ飛ぶ。小生は、93-96年、デューク大学のRobert Lefkowitz教授のところで博士研究員をしたが、今回は、彼の60歳記念のお祝いをこめたhome-coming seminarであった。なつかしい面々に会った。小生が非常に影響を受けた大ボスで、アドレナリン受容体の研究でノーベル賞に近い研究者のひとりである。デュークでは、Linda Buckのところにいた松波君が独立している。松波君は奥さんと二人三脚でラボを推進しているという感じで、生き生きとしていた。小生がオーガナイズしている秋の日本生化学会のシンポ「分子センサーとしての感覚受容体」で話してもらう予定。Larry Katzの研究室の実験セットアップは、どれも見事な手作りで、さすがとうなってしまった。やはり、何かをやろうと思ったら、既存の手法でやるだけではなく、自分達でセットアップするという姿勢はいつも持たないといけないと改めて再認識させられた。小生のところでも、マウスフェロモンの研究をしているのでいろいろ参考になった。

 毎日一カ所づつ計五カ所で連続セミナーをしたが、さすがに疲れた。英語英語の緊張感あふれる毎日で、自分達の研究をアピールするので精一杯であった。米国東海岸ツアーなどと書いたが、東海岸では、U. MarylandとJohns Hopkinsにも嗅覚研究グループが集中している。U. Marylandには、以前、小生がAssistant professorでこないかとリクルートされたときに訪問しているので、今回はいかなかったが、department自体が「嗅覚学科」のようになっている。思うに、再現性のある仕事をひとつひとつ積み重ねていくことが大切で、地味でもそういった仕事を高く評価してくれるひとが世界のどっかにいるという実感をもてたことが今回の一番の収穫であった。また、しっかりとしたデータをだしつづけることによって、研究室の評価もあがり、論文も通りやすくなり、卒業していく学生達のポジションも比較的スムーズにとることができるようになると感じる。今回は、現在投稿中の論文や投稿予定のデータを多く盛りこんだので、手応えはかなりあった。まだまだ歴史の浅い小粒の東原グループであるが、一緒にやってくれている学生さん達もがんばってくれているので、そろそろ、大腸菌増殖でいうLag phaseから脱出してLog phaseに突入して成果をだしていきたいものである。(平成15年7月30日)

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