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年頭所感

┃ 令和5年元旦 ┃ 東原和成

令和6年新年にあたって

新年明けましておめでとうございます。

  最近はテレビをほとんど見ないのですが、久しぶりに紅白を観戦しました。毎年歌唱力で紅組の方が良かったなと思うのに白組が勝っていましたが、今年の赤組の圧勝の結果を見ると、去年まではジャニーズの力だったのかなぁと勝手に思っています。票集めというか、票を入れたい支持者の数で決まるのだなぁと。あれ、今世間を騒がしている政治と同じだな。研究もそうだけど、評価指標はたくさんある中で、純粋に良さで評価したいものです。

  昨年4月から副研究科長を拝命しました。私が尊敬する先生が研究科長になったので喜んでサポートをしたいと思ってスタートしました。しかし、財務のことやら、説得力を上げるための調査や、慣れないことが多く、予想以上に大変で、その分研究教育に皺寄せがいき、学外の講演の多くを断っただけでなく、研究室のみんなに迷惑をかけました。研究ばっかりやっていたいと思いつつ、年齢的には大学運営に貢献しないといけない年なので仕方がないとは思っています。

  さて、副研究科長の任務を始めたとたん、電気代がいきなり高騰して、慣れない会計のことを勉強しながら、研究科の大赤字をどうするかに悩みました。そこで私の中で根本的な問題として浮き彫りになったきたのが、国立大学法人化以降の国と大学との関係です。藝大のピアノ売却や建物老朽化による事故、科博のクラウドファンディングで明らかなように、近年日本の教育に対するサポートの弱さが露呈しています。日本学術会議でも学問の自由が奪われそうになっています。大学の教育現場はヒトもお金も瀕死状態です。法人化以降、大方は国の予算に依存しつつ、一企業のように大学は稼いで独立するべきという価値観を国から押し付けられてますが、教育機関が稼ぐなんて本末転倒です。一方で、欧米諸国は、教育職についている人の給料と評価は高く、学生は美術館無料など、人を育てる現場と学問を大切にしています。そんな国に日本は今後競争に負けるのが目に見えてます。さらには、国はもっと学生に教育機会を与えろと言って大学に投資させつつ、大学教員も運営費もどんどん削減して、破産状況に持っていかせ、その挙句、国際卓越大学プランという毒饅頭で国が大学を支配するシステムを導入しようとする、まるで子離れができない親のような国です。

  教育の視点だけでなく、研究現場を取り巻く環境も厳しいものがあります。国からの大学運営費がどんどん少なくなり、外部資金をとってこないと研究ができない状況になってきています。ボトムアップの外部資金は科研費のみですが、物価高の中、科研費の額は増えていないので何割か減っているのと同じです。万博開催で数千億が補填されましたが、日本の科研費全体の予算はほぼ同じ額です(総務省の言う「科学技術研究費」とは違う)。それで100万人の研究者が研究をしていますので、単純計算すると一人たった数十万円です。一方で、国はトップダウン型の研究費を多く投入しています。これは重点課題を設定して戦略的に遂行する研究費ですが、日本の課題設定には時間がかかります。有識者から今やるべき研究課題を調査し、その議論を進めてから慎重に決定する、そして実際に財務省からお金をゲットしてスタートするのに、数年間かかっています。その間に旬な研究はそのタイミングを逃し、欧米諸国に遅れをとってしまっています。さらには、スタートしてもある特定の人の意見が取り上げられ、声の大きい、目立つ人にお金がおちて、適切な選択と集中がおこなわれていない。ボトムアップもトップダウンもうまく回っていない研究現場が現実で、そんな悲観的なアカデミックは若者にとって魅力もなく、人材も減っていき、悪循環となっています。

  新年早々に苦言ばかりで申し訳ありませんが、では、どうあるべきか。国は、理由付けなんか必要なく教育にお金をかけ、保育士から大学教員まで教育に関わる人たちにstatusを与える、そして学問の自由を認める、逆に言えば、学問はトップダウンであるべきではない。そうしないと、次世代は育たず、価値観は歪み、日本は確実に失墜します。幸いなことに、コロナ禍は去りましたが、初等教育から高等教育まで全ての教育の現場の緊急事態宣言を発すべき時にきていると思います。

  では、逆に我々教育者は何をすべきか。世の中、Society 5.0に向けて効率化を目指して、AIを駆使したアプローチやDXの風潮が台頭してきていますが、私はそれは教育の対象ではなくてあくまでもツールで、今後の大学では、ポストAI・DXを見据えた教育を推進するべきだと思います。それは、プロセスをデザインして遂行できる力を育むこと。一昔前までは当たり前であったことですが、これができないと、仕事もできない、仕事ができない人が増えると、国力も衰退する、そして安全・安心な社会ではなくなっていく。

  と書いていたところ、年始から大地震と飛行機事故。とても悲しい出来事で言葉になりません。ただ、自然災害はともかく、情報社会、DX化に伴い、AIが動かすシステムに頼りっきりで、プロセスをおろそかにして、人間の感覚が鈍ってきているのではと危惧します。人間らしい直感力を退化させない教育をすべきだと思います。それは動物としての直感に加えて、高度に進化した人間としての「プロセスを踏んだロジックのある直感」です。今年も、そんなことを意識しながら学生とディスカッションしたいと思う年始です。

  研究室ともどもよろしくお願いします。  

東原和成 1月5日 

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