年頭所感
┃ 令和4年元旦 ┃ 東原和成
令和4年新年にあたって
新年あけましておめでとうございます。
毎年、新年にあたってのウェブアップが遅れていきます。年々どんどん何かに追われるように仕事と生活をしていくようになっていっています。なぜなのかなぁと年末考えてみました。私の結論は、以前は何事もおおらかにやってきたことを、近年はとても神経質になってやらないといけなくなり、それが我々を忙しくさせている要因ではないかということです。おそらく最近は、みんな失敗を恐れ、完璧を求めすぎているのではないでしょうか。100%を目指すととてもプレッシャーと時間がかかります。
そんなことを思っていたところ、年末に「99.9」の再放送をやっていました。犯罪事件は起訴されると99.9%有罪という事実に真っ向から勝負したドラマです。とにかく面白い。俳優たちのキャラをうまく引き出しているだけでなく、ロジックの組み方が良い。おそらく考証担当の人がとても優秀なのでしょう。主人公の弁護士深山は、とにかく現場を再現してみる。そして、やってみると、つじつまが合わないことが見えてくる。ただ、そこには周到な準備とロジックが必要。おっ、これってサイエンス、研究でも同じではないでしょうか。研究でも、頭で考えているだけではダメで、とにかく実験をやってみます。そして、得られた結果を白紙の頭で素直に見てみると、人間のバイアスが消え、そこに自然の摂理が見えてきます。まさにそれが、深山が知りたい「真実」なのです。
一方で、私たちは、どんなに素晴らしいロジックで語られていると見える論文も疑ってみます。100%正しい論文は、全体のほんの一握りです。ただ、捏造など悪意がある論文は少なく、ほとんどの間違いは、実験系の限界以上に物事を言ってしまっているケースと、チャンピオンデータを採用してしまっているケースです。どちらも人間がかけるバイアスによる間違いです。なので、新しい研究をスタートする時は、まずは、過去のデータを自分たちの手で再現できるかをやるところから始まります。その段階ではまってしまうことも多く、研究のストレスの多くはそこにあると私は思います。でも、自然の美しい摂理が導きだせたときの喜びは病みつきになります。そこには間違いは一切なく、100%真実です。
人間は間違うのです。間違いたくないと思っても、失敗します。うまくいかないのです。でも、それで良いのだと思います。人間ではなくても、どんなに精巧に作られている機械もAIも間違えるのです。私は、その間違いを寛容に受け入れることが、生きる術だと思っています。そしてその間違いがあるから、全てが改善されていくのです。でもどこかで私たちは間違いなし、故障なしを求めています。
年末、私の携帯の画面がパチパチと暗くなるなと思ったら、液晶が壊れました。もう6年近く使っているので、そろそろ寿命かなと思いますが、携帯を過信して、100%頼っていることに気づき、この便利さが壊れることによるストレスがとても大きいなと実感しました。便利なものも必ずいつか壊れて交換しなくてはいけないのです。テクノロジーが進化して便利な世の中になればなるほど、それが壊れた時のストレスが大きく、それが健康寿命を縮めることになるのではと思っています。
そこで生活のストレスを軽減するのに活躍するのが、私たちが研究している「香り」「嗅覚」なのではと思っています。おっ、結局そこかと、この文を読んでいらっしゃう方は思っているかもしれません(笑)はい、私の起承転結の結びのロジックはいつもここなのです。
今年も研究室共々よろしくお願い申し上げます。
東原和成
令和4年1月