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年頭所感

┃ 令和2年元旦 ┃ 東原和成

令和3年新年にあたって

新年あけましておめでとうございます。

恒例の「新年にあたって」のアップが大幅に遅れました。というのも、年末年始でどんなことを書こうかと思いを巡らせたところ、COVID-19以外のネタがあまり思い浮かばないのです。昨年のことがあまり記憶に残っていないのです。「プルースト効果」という言葉で知られていますが、匂いとそれを感じた場面の記憶は密接に結びつきます。つまり、記憶に残るということは、五感のクロースモーダルで別の感覚と関連づけて覚えていることが多いと思います。昨年は、COVID-19でオンライン化が進みリモート講義や会議がほとんどになり、視聴覚のみでコミュニーションを取るようになりました。そこでは情報のやり取りはできるのですが、どのような空気が流れているか、どのようなにおい空間なのか、視聴覚以外の感覚は相手と共有できていません。つまり、リモートやオンラインでの会話は、会話をした相手も内容も、記憶に残りにくいのではと私は思うのです。

ネタが思い浮かばないもう一つの理由として、この一年、自分自身があまり考えていなかったのではと思うのです。どういう時に考えるかというと、多くは移動している時です。在宅勤務で通勤時間と通勤混雑ストレスが減り、物理的な移動をしないで会議を梯子できるようになり、効率よく便利になったなとメリットを感じる一方で、実は、電車通勤時、会議室や講義室に向かう時、国内・海外出張で新幹線や飛行機にいる時、そういった今までは無駄だと思われていた移動時間は実は貴重な「妄想」をする時間だったのです。そういう時、関係ない雑音が入ってくる中で、研究のアイデアが浮かんだり、頭の中でモヤモヤしていたものが整理されたり、考えが有機的につながって自分らしさが見えたり、過去から将来に向かっての方向性を感じられたり、そんな思考回路が動いていたのです。そんな時間がなくなってしまって、結局、何も考えていなかったのではと思います。

サイバー空間は便利で効率がいいのかもしれませんが、私たちはその仮想空間に動かされているだけで、人間としての成長をする時間がなくなり、人間らしさを失っていっていくのではと危機感を感じます。視聴覚の使い方にしても、マスクで相手の顔色を読み取れない、口の動きが見えないので言葉のニュアンスを感じにくい。こんな状況では、生きていく上で一番重要な五感の育みが阻害され、すでに大人になっている私たちはいいとしても、これから成長していく子供たちの行末を考えると、人間の危機として「脳の緊急事態宣言」を出さなくてはいけないのではと思うのです。でも、さしあたっては、COVID-19の終息に向けて、人類が一丸となって、人類の知を結集することが必要です。

昨年の「新年にあたって」の最後に、「今回の年末年始は、総長補佐としての宿題をやっています。その宿題の結果は、4月にお披露目される予定です。」と書きました。実は、総長の祝辞のお手伝いをさせていただきました。お手伝いさせていただいた式辞は、当初は4月の大学院入学式で使われる予定でしたが、学部入学式と一本化されたため、9月の入学式に回されました。以下のリンクページに英語と日本語が掲載されています。
https://www.u-tokyo.ac.jp/ja/about/president/b_message02_08.html
でも、これも私にはすでに遠い過去に感じられます。これを書いている今、緊急事態宣言の再発動が議論されています。これからどうなるか、とにかく、全国民(全人類)の一人一人の適切な行動にかかっていると思います。

あまりパッとしない新年のご挨拶になってしまいましたが、「脳の緊急事態」をどう乗り切るか、それが私の今年の課題であるとともに、研究室のメンバーが成長するためにも大切なことかなと思っています。

本年も研究室ともどもよろしくお願い申し上げます。

東原和成
令和3年1月

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