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年頭所感

┃ 平成27年元旦 ┃ 東原和成

平成27年新年にあたって

新年あけましておめでとうございます、と今年はご挨拶できない年です。というのも、昨年、年明け早々に父が他界しました。まるでミニシンポジウムをオーガナイズするかのように、感傷に浸る間もなく葬式をバタバタとやり、書類手続きでてんてこ舞いとなりながら、年の前半は足早に過ぎ去ってしまったという感じです。銀行などはともかく、携帯電話を解約するのにも死亡診断書がいるとはびっくりでした。さらには、父の携帯はだいぶ前に亡くなった祖母の名義だったので、契約解除が簡単にできなくて大変でした。ひとりの人間が、社会に管理されて契約に縛られていることを実感しました。ともあれ、先月に一周忌を無事に終えました。最近、近しいひとの別れが増えてきましたが、意外と心のなかで会話ができている感じがします。

暮れにディズニーのベイマックスを見ました。あまり期待していなかったのですがとてもよい映画でした。日本とアメリカが融合したような空間の未来世界に生きる少年が、自分の意思でどのような動きもできるロボットを開発するのですが、最終的に人類愛が人間の欲望に勝つという映画です。人間は自分の思いどおりにしたいという欲をもっている一方で、自分を犠牲にして他人を救いたいという高度な感情を持てる生物です。こういう感情を総じて「情動」といいます。情動は、仏教でいう六根、すなわち、眼、耳、鼻、舌、身、意を通して生まれます。五感と意、すなわち意識の根幹です。仏教では、我欲や執着を祓うことを六根清浄と言います。つまり、六根を理解することが、人間を理解することにつながり、さらに人間をより高尚なレベルへ導くことにつながるのだと思います。

実は、数年前、新学術領域研究の代表として、「五感と欲」をテーマとした計画提案をしました。動物の本能的行動や情動は、五感からの入力によって支配されているので、五感の仕組みを明らかにすることは重要な脳科学研究です。それに加えて、人間は、六根の「意」が加わり、高度な欲へと発展します。私たちは、マウスやハエなどのモデル生物を超えて、人間の情動や欲の理解へ目指して、新たな学際的な領域を創ろうとしました。結果は、書類審査はとおったものの、ヒアリング審査で私がきちんと「欲」の概念をクリアに説明できなかったために落とされました。しかし、今でもこの提案はよかったと思っています。おそらく、クリアカットに説明できないからこそ説明できるようにするために研究をするのだと思います。そのための新領域なのですが、審査委員の先生方にとっては、見通しが立たない研究だと感じられたのだと思います。自分も同様に審査員を経験していますが、研究の先見性と現実性のバランスを見極めるのは大変難しいことだと思います。

一方、研究室のほうですが、私が本郷に移動してきて丸5年経ち、第一期生が今春にD3になります。ようやく成果をだせる体制が整ったのを感じます。その兆しとして、昨年12月に農学部のソフトボール大会で3位になりました(笑)。そして、ERATOプロジェクトですが、昨年5月には、昔は競争相手、いまは親しい仲間であるStuart Firestein氏をアメリカから招待して、キックオフシンポジウムを行いました。「教育」(StuartによるIgnoranceを題材にした講演)、「学術」(ERATOプロジェクトリーダーによる発表)、「美味礼賛」(日本ワインと料理の嗅味覚マリアージュ懇親会)の3部セッション構成という今までにないシンポジウムを開催し、大変好評でした。プロジェクトのセットアップも終わり、今年は成果をださなくてはいけない年です。

今年は、元旦の夜明けに茨城県の大洗の海岸に行って、生まれて初めて初日の出を拝みました。日の入りは何度も見ていますが、日の出をきちんと見る機会はなかなかありません。日の入りのときは、一日ありがとうございましたと過去を振り返りまた素晴らしい明日になるように想いを馳せますが、日の出の瞬間は今日一日のことを考えます。初日の出とともに立てた今年の抱負を達成できるようにがんばりたいと思います。それは何かって?今年の終わりに皆様に達成報告できたらよいと思っています。

本年度も、東原研ともどもよろしくお願いいたします。

平成27年元旦

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