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年頭所感

┃ 平成22年元旦 ┃ 東原和成

平成22年新年にあたって

新年明けましておめでとうございます。

今年は、研究室のリーダーとなっての初めての正月となります。10月末に正式に教授会で決まってから、考えなくてはいけないことがたくさんの毎日でした。これから研究室をどのようにして運営していこうか、学部生への生物化学の講義をどうやってやろうか、そして、楽しくて希望のある本質的な研究プロジェクトは?、そんなことばかりを考えてきた二ヶ月でした。でも、思えば、きっとこれから20数年間、この三つの課題については、ずっと続くものだと思っています。まるで中小企業の社長のようですね。

私が受け持つ生物化学研究室は、東京帝国大学に農科大学が設置され、農芸化学科が創設された明治26年(1893年)に遡ることができます。発足当時は、農業化学理論の祖ともいわれるリービヒに強く影響をうけた学者オスカル・ロイブ氏が職務を担当したと記録されています。そして、明治40年(1907年)9月に、鈴木梅太郎先生が初代担当教授として就任し、生理化学とともに、日本で最初と言われている生物化学の講義を担当されました。鈴木先生は、やはりリービヒの学問系統に属するエミール・フィッシャーに師事し、後に、オリザニン(ビタミンB1)を発見するなど、酵素、タンパク質、脂肪、ビタミンなど広範囲の革新的研究を展開した大教授です。私はその伝統を引き継ぐ第十代の教授となるわけです。なんと身が引き締まることでしょう。

生物化学という分野は、生体内の仕組みを化学的な視点から理解しようという学問であります。一方で、私は匂いやフェロモンなど生体の外部に放出される分子、そしてそれを生物がどのように感知するか、という研究をやっています。一見すると、生物化学?と思われるかもしれません。でも、匂いやフェロモンなどの化学物質は、代謝経路から発する物質であるという原点にもどると、ほら、生物化学でしょう。そして、それはただ単に代謝の結果としてたまたま発せられているだけでなく、生物はそれを積極的に情報として利用する術を獲得してきました。それがいわゆるフェロモンの概念です。匂いやフェロモンは、生きとし生けるものの証拠であります。生命の根源です。そして、われわれ人間は、食卓などの生活空間で、香りを享受します。フェロモンは生態環境系を支配するほどの物質でもあります。ほら、化学的な視点から「生命」「食」「環境」に取り組むという農芸化学の方向性につながるでしょう。私は、農芸化学の生物化学研究室のリーダーとして、「嗅覚」をひとつの対象システムとして研究を推進していきたいと思っています。それが人間の福祉につながるということを信じて。

この数年間、HP上で、「新年にあたって」を記してきました。それは、私自身への叱咤の言葉でもあり、抱負でもあります。研究者としての「信念」を伝える場でもあると思ってきました。ただ、本当にいい仕事をするためには、研究室のひとりひとりが信念をもって走っていかないといけないと思っています。今までも、芯の強いがんばる学生が入って来てくれて、素晴らしい研究者あるいは社会人として巣立っていってくれました。いまも素晴らしいメンバーに支えられています。これからも、研究に打ち込み、一流の仕事をしてでていくような気概のある学生が入ってきてくれて、一緒に、新風の生物化学研究室を作っていきたいと願っています。

さきほど、紅白歌合戦が終わりました。今年は私が好きな歌唱力のある女性歌手が多かったのですが、歌の世界では、どうも草食系といわれている男性が強いですね。アリス、永ちゃんなどアラ還男性のパワーでしょうか。私の研究室では、フェロモンということで「性差」もひとつのテーマです。「30%は女性研究者へ研究費」などと逆差別的なことを言う官僚もいますが、紅白歌合戦を見ると、やっぱり男と女がいる有性生殖の生物にうまれてよかったと思うばかりです。

今年もよろしくお願いします。

平成22年0時10分 元旦

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