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コラム

以下は、「化学」2009年2月号に掲載されたコラムです(連載第二弾)

東原和成 ┃ 化学 ┃ 2009年2月号

研究につまづいたら

 実験がうまくいかないで躓いたとき、その理由として、腕が悪いときと技術の限界のときがある。私の経験からいうと、腕が悪くてうまくいかないときのほとんどは、実験の段取りが悪くてスピーディーさにかけるときである。化学の分野はもとより、生物学でも分子生物学の分野でも、ほとんどの実験はつまるところ「化学反応」がベースになっており、もたもたしていると変なことがおきるのである。何度も同じ実験を繰り返していると突然うまくいくことがあるのは、その実験に慣れて効率よく早くおこなえるようになるからである。研究が進むひとは、実験も早いし正確だ。ここで小結。うまくいくはずの実験がうまくいかないときは、操作は正確にスピーディーに。

 一方、技術の限界でうまくいかない場合もある。そんなときは、少しずつ改良しながらとにかくやりつづけるしかない。大きな発見は、こういうことができたらいいけど技術的に無理だとみんな思っていたことを現実にした結果、生まれるケースが多い。あきらめずに必ず実現する、という信念をもって実験技術を立ち上げていくことが大事である。とは言っても、なかなか解決しない問題も多い。そんなときは、ボスとか先輩とかとたくさんディスカッションをして、実際に実験レベルで何がおこっているかについて、頭で整理することが大事である。ここで小結。うまくいかなくていきづまったときは、誰でもよいから話そう、すると頭が整理されて問題点が浮き彫りになる。

 さて、ボスとしての立場では、上記のように学生達の実験がうまくいかないというときに、解決策をだしたり方向性の変換などをするが、そんなときは第三者の目から見ることが大事だ。ボス側がだしたテーマが実現不能であるときもあるが、その見極めも責任もってきちんとする必要がある。そして結構よくあるのが、ボスとして研究のテーマが思いつかない、学生が来たのにいいテーマがない、ということである。こんなときは、私は必ず過去の論文に助けを求める。総説や原著論文やらいろいろな論文を読む。昔読んだ論文ももう一度斜め読みしたりする。要は、オリジナルなアイデアなどはそうめったになく、ほとんどのテーマは、過去の知見にもとづいて論理的な思考のもと生まれるものである。私は、科学者が「それはオレのアイデアだ」とか「そのアイデアはオレももっていた」などということ自体がナンセンスだと思っている。古い文献や報告のなかにアイデアがうもれていることも多い。それをいかにして発掘できるかがボスの力量が問われるところである。学生諸君も然り。ここで小結。テーマに迷ったときは、論文を読みあさってお宝を求めて温故知新。

 そして最後に、研究にいきづまったら、やっぱり息抜きをすることだ。私の息抜きは、美味しいものを食べ、飲みにいくこと。料理屋で出会う一般人との会話から、はっとするような本質的な視点に気づく。嗅覚感覚を研ぎすませて、面白い研究の匂いを嗅ぎ分ける。もちろん実験で息抜きをしてもよい。ボスに内緒の実験やお遊び実験などをやってみよう。チャップリンは名画ライムライトで「人生で大切なことは、愛と勇気と少々のお金」と言った。研究で大切なことは、論理と勇気と少々の遊び心。

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