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コラム

以下は、「化学」2009年1月号に掲載されたコラムです(連載第一弾)

東原和成 ┃ 化学 ┃ 2009年1月号

研究計画のたてかた

研究は自然を対象とした仕事である。自然現象の仕組みを明らかにしたり、それを利用して人類の生活や福祉に役立てるためのものを作ったりする作業である。つまり、うまくいく実験は自然の摂理にかなったものであり、うまくいかない場合は人間のバイアスがかかった自然に逆らった計画やアイデアなのである。

研究計画は、過去の知見や報告の緻密な調査と、それを基盤とした仮説や戦略の決定、そしてそれを具体的な実験レベルに具体化して適切な手法を選択するという3つの段階にわけられる。うまくいかないときは、文献調査不足、ロジックのない戦略、不適切な手法の時であり、逆にこの三つがきちんとできていれば実験はうまくいくはずである。では、世の中に素晴らしい仕事と評価される研究をするための計画はどのように立てたらいいのか?

キーワードは、QuestionとApproach。往々にして、自分の研究環境を見て、今できることは何か?というquestionで研究計画を立てるが、それは小手先的で、後追いになる研究や例えば生物を変えただけの研究になってしまうことが多い。重要なことは、何が現在その領域で本質的な問題なのか?なにが本質的なquestionなのか?というスタンスでテーマ設定と研究計画をたてることである。Approachに関しては、よくあるのは、自分たちが持っている技術で何ができるか?最先端の技術をつかってやれることはなにかないか?という考え方である。そうではなく、自分のたてたquestionに対してベストのapproachは何かと考えて、その技術をもっていなければ、自分で立ち上げる、作り上げる、そういう態度でのぞまなくてはいい仕事になる研究はできないと思う。

・・と、頭ではわかっていてもなかなかうまくいかないのが現状である。話はもどってしまうが、ほとんどの場合は計画倒れである。私の研究室では,匂いやフェロモンの嗅覚感覚の仕組みを分子・細胞・個体レベルで解明しようとしているが,その取組みから生まれた成果は、当初の計画には全くない、予想外の進展を見せたものが多い。たとえばマウスのオス特異的フェロモン(性フェロモン)を探したときも、尿にあると見込んで研究を開始したが、実は、そのフェロモンは涙からでていた。全く予想もつかなかった。でも、それがサイエンスなのである(そういう意味では、例えば研究費を採択するか否かを判断するときは、いかに研究計画がうまくいきそうかではなく、申請者の研究遂行能力を見るべきだと思う)。

計画をたてて実験をはじめると、予想以外の結果がでる。実験をやっている本人は、うまくいかなかったとへこむ。でも、実際は、自然は決して逆らわない、うまくいかなかった実験は実はうまくいった実験なのである。それが真実を語っているのである。そして、計画は次々に壊れ、新たな計画をたててはまた壊れ、それを繰り返していくうちに、自然の摂理を的確に表現する美しいストーリーがいつのまにか見えてくるのである。

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